見出し画像

秘境混浴温泉旅館若女将事件簿6「結成、若女将アベンジャーズ! 雪に隠した殺意と封印された因習! 涙の真犯人! 拝空温泉存亡の危機をどれかの若女将が救う!」

【ナレーション】N県の山間にたたずむ、戦国武将も浸かったと言われる拝空(はいから)温泉。冬はスキー客と猿の訪れる老舗旅館「鳳天館」の混浴露天風呂で、土地の童歌になぞらえるよう、口いっぱいに木彫りの猿を詰め込まれた溺死体が発見された。

 被害者は宿泊客の若い女性。旅館の若女将、木の葉ロクが通報したが外は猛吹雪。近所の駐在でさえ、到着できるか怪しいらしい。

 しかし、若女将は狼狽えない。なぜなら、彼女はこの拝空温泉で起こる数々の殺人事件を解決してきた凄腕素人探偵若女将なのだ。【ナレーション終わり】

 ……事件現場の混浴露天風呂には、今や10人以上の凄腕素人探偵若女将がいた。下はティーンエイジャーから、上は50代まで(大女将が90代なのだ)。彼女たちは数日前からこの鳳天館に逗留している、全国から集った素人探偵若女将たちだ。招待したのは鳳天館の若女将。Facebookで知り合った各地の温泉街にいる若女将たちと、情報交換と骨休めを兼ねての楽しい旅行になるはずだった。

 私の名前は清水アオ江。小一時間前に享年22歳になった、大学を出てすぐT県の「ホテル愛楼(ういろう)」を継いだ素人探偵若女将だった。今は幽霊のようなものだ。

 一緒に入浴していたK都の「加羅上(からあげ)荘」の素人探偵若女将に首根っこ掴まれたあたりから記憶がなく、意識が戻った時には体が死んでいた。なんで猿が口に詰まって……?

 とにかく、困った。何とかして、真犯人を伝える必要がある。ただし、素人探偵若女将の探偵としての自尊心を損ねない範囲で、だ。

 どうしてか? 素人探偵若女将は、素人探偵若女将として活躍するために因果を歪める存在だからだ。私もそうだったので分かる。ジャンジャン人死にが出るのに宿が潰れないのは素人探偵若女将の権能だ。

 ん? ちょっと待って……素人探偵若女将が事件を解決したら、残りの素人探偵若女将はどうなるんだ?

【つづく】