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結局,「わからない」がわからない

 授業では,生徒がわかっているかどうかを確認しながら進めることが大切であることは,小中高を問わず大切であることに異論はないだろう。
 ある事項について,生徒がわかるように説明できるかかどうかは,経験がものをいうことでもある。「こう説明したけどわからなかった」となれば,次は説明のしかたを変える。その積み重ねで授業が改善されていく。・・と思われるが,実際はそう単純ではない。
 こう説明したら去年までの生徒はわかったのに,今年はわからない生徒がいた。となるからだ。それも,ちょっといた,結構いた,と程度が異なる。
 授業中はそれほどでなくても,試験をしてみたら,「今年はできない」ということもある。わかったかどうかは,生徒から発信してもらわなければこちらにはわからないわけで,試験の場合は答案の記述ということになる。試験でなく,授業後のレポートでもよい。それは,単に正答率というだけではなく,記述力が低くなっていることによる場合もある。「記述力が足りない」というのは毎年感じることなので,書きかたを説明したり,添削したりするのだが,「こうやってもだめか」と思うことも一度や二度ではない。

 さて,先日感想を募集した,文字コードについての問題。フェイスブックでも感想を募集した。
 note ではちょっと失敗したことがある。もらったコメントにすぐ反応してしまったことだ。反応しないつもりだったのがついコメントを返してしまった。すると,あとの人への影響が生じる。
 フェイスブックでは,貴重な意見をもらった。ほんとうに「わからなかった」人が,わからない状況を説明してくれたのだ。
しかし,いかんせん,そういう人が少なすぎた。
結局,なにがわからないかはわからないままだ。

また,実際に授業でやった場面と,note に書いた場面とで,背景が異なる,ということもある。授業では「そのまえにこれだけやってある」ということがあるが,note の1ページだけではそれがない。

 問題はこうだった。(細かいところは略)

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次の表は英数字半角文字のコード表です。

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また,漢字やひらがなは,次の表のようにシフトJISコードやユニコード(UTF-8)で表されます。

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さて,テキストエディタで,次のように打って,どのように保存されているかを見るソフトを使って中身を見てみました。はじめがシフトJIS,後ろがUTF-8です。

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左右を比較すると,t のコードは 74 であることがわかります。
では,「港」のシフトJISコードは何ですか。また,UTF-8コードは何ですか。

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まず,高校2年生158名中の結果を示しておこう。
1文字だけでなく,すべてを書かせた。(ただし,実際には例文は異なる)
(1) 全部できた者 5名( 3.2% )
(2) シフトJISとUTF8 の両方ともできなかった者 7名( 4.4% )
(3) シフトJISで「東京都港」まではできているが「区」を8BE6 と答えず「8B」とした者 34名(21.5%)
(4) 0D , 0A で改行 ができた者 23名( 14.6% )

であった。つまり,ほとんどの生徒は,シフトJISはできたがUTF-8ができていない,という状況である。

ここに至る経過を説明しておこう。

次のことは学習済みである。ここが note に書いたこととは異なるところだ。
・2進数,16進数および相互変換
・「バイト」の意味,コンピュータではバイト単位で処理することが多い
・ASCIIコードとUTF8コードの列を文字にする練習は1ヶ月前に教科書を読んで自習している。

(5) 15ページの問にあるASCIIコード列の2番目をアルファベットにしなさい。
  59 4F 55 20 44 4F 4E 27 54 20 48 41 56 45 20 54 49 4D 45 2E
  →
(6) 教科書158ページの日本語文字コード表を見て,次の UTF8 で書かれた4文字
 のコードをひらがなに直しなさい。
   E38197 E3819A E3818A E3818B →

 つまり,「文字コード」の意味は知っていて,使ったことがある,という状態である。ただし,1ヶ月前のことなので忘れているということはあるだろう。

 さて,当日の授業。note に書いたように,ASCII のコード表と,漢字コード表をもう一度見た。
「シフトJISは2バイト,UTF-8は3バイトだね」と口頭でも言っておいた。
その上で,実際にコンピュータで次のことを行う。
・テキストエディタで課題文を打ち込み保存する。
・ファイルダンプソフトを使って中身を見る。
・ファイルダンプソフトの使い方,表示メニューで文字コードを合わせる方法を説明,最初の 74 が t に対応することも説明。
 
 そこまでやったところで,各自がレポート用紙(プリント)の表に文字とコードの対応を書いていく。
 コンピュータでの実習も含め,レポート用紙に書くのも相談可である。実際,コンピュータの画面を見ながら相談して答えている。

 この結果が上記の通りなのである。UTF-8 を3バイトずつ拾って答えられた生徒が 3.2% しかいないのだ。
 昨年も同じ実習をやったがもう少しできていたように記憶する。(記録がないので比較できないが)
 シフトJISは2バイト,UTF-8は3バイトで表されるので,それを拾っていけばよいのだが,

(3) シフトJISで「東京都港」まではできているが「区」を8BE6 と答えず「8B」とした者 34名(21.5%)

ということは,シフトJISを拾っていけているようで,実は「シフトJISは2バイト」ということがわかっていない生徒が21.5% いるということなのだ。
 これはいったいなんだろう。

 フェイスブックでは,専門用語が多くてわからない,という意見もあった。
ただし,それを書いてくれた人は,実際にはわかる人なので,「知らない人にはこれではわからないだろう」という意見であったから,なんともいえない。
「バイト」という言葉の意味がわからないのではないか,という意見がほかにもあったが,そうであったとして,はたして答えられない問題だろうか。
「バイト」って何のことかはわからないが,アルファベットは2文字,シフトJISは4文字,UTF-8は6文字,という理解でもいいのだ。それだけで,比較していけば答えられるのではないか(実際,それが狙いである)と思うのだが,どうもそうではないようだ。
 2進法も16進法も,「バイト」の知識もいらない。アスキー(ASCII)コード表と日本語コード表と,ダンプした結果を見比べながら「推理する」ことができれば答えられるのではないだろうか,というのが狙いなのだが,それができなかった。
いや,UTF-8が3バイト,とわかっていれば,左右を見比べて書いていくだけ。推理も何もないことだ。

これは「読解力」とは異なるのではないだろうか。

この問題に正解するには,知識が必要なのか,読解力が必要なのか,推理力が必要なのか,それを知りたかったのだが,残念ながら結局わからないままである。

 もし,読者で何か思うところがあれば,コメント欄に書いていただけるとありがたい。今回はコメント返しはしないので,そこもご了承願いたい。