哀しみについて考えるとき。

電話を通して、僕は君と心がどんどん離れていくのを感じる。
そこに表情は無く、トーンと、振動と、色がある。
部屋がずっと暗くなり、まったく、なんの音もきこえない。
時計は回っているが、時間は進んでいない。
世の中の理から、一人落ちてしまった間隔がある。
何の物理からも切り離された空間。

まただ。また俺はこの空間に取り残されるのだ。
遠くで、シンバルを鳴らす音が聴こえる。
猿が叩いているのだ。
きっと歯を剥き出しながら。
僕にしか聴こえない音で。
何度も何度も。

「じゃあ。」
その声だけ聴こえる。
僕は何も答えられない。
喉が空気を震わせることが出来ない。
受話器から冷たい手が伸びてきて、僕の首を締めていた。
僕はゆっくりと目を閉じて、遠くから聴こえるシンバルの音だけを聞いていた。

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