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石戸諭さん×古賀史健さん「ライターの未来——だれもが書き手になる時代、あなたは何を書くのか」イベントレポート

「だれもが書き手」のこの時代に、私たちは何を、どう書いていけばいいのか──。noteでものを書き続けるクリエイターのみなさんに向けて、9月24日(金)に、現代のトップライターである石戸諭さん古賀史健さんをお招きし、「書くこと」について語っていただくイベントを開催しました。おふたりの熱いやりとりは、予定していた時間をはるかにこえて続きました。この記事では、おふたりのお話のなかでもとくに印象的だった言葉をピックアップしてお伝えします。

イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

駆け出しのころはいまとは違う志向だった

『自粛警察』の正体――小市民が弾圧者に変わるとき」でネットメディアのすぐれた報道をたたえる「PEPジャーナリズム大賞」第1回大賞を受賞し、8月には最新刊『ニュースの未来』も上梓された石戸諭さん。新聞記者出身ということもあって、いわゆるジャーナリストとみなされることも多い石戸さんですが、じつは違った志向を持っていました。

「学生時代はスポーツ・ノンフィクション作家の山際淳司さんを尊敬していて、『Number』で書くようなスポーツライターの仕事に憧れていたんです。でも大手の出版社は就職が難しそうだなと。新聞社なら採用も多く、出版部門もあるからいいかなと思いました。記者の仕事がおもしろかったので、いまにいたっています」

談笑する石戸さん1

一方、『嫌われる勇気』の世界的なヒットで知られ、最新刊『取材・執筆・推敲』も大きな反響を呼んでいる古賀史健さんも、意外なルーツを持っていました。

「映画監督になりたかったんですが、就活してなれるものじゃないので、とりあえず就職しようと。人見知りの激しい性格を直すために接客業に就こうと思い、そのなかでも楽そうだと思ったメガネ屋の店員になりました。メガネ屋の店員ってお店で優雅にメガネを拭いてればいいというイメージがあって(笑)。でも実際働いてみたら結構きつかったですね」

談笑する古賀さん1

ライターに転向して最初の仕事は、旅行代理店の広告の写真のキャプションを書くというものだったそうです。とくに出版業界への憧れがあったわけではなかったという古賀さんは、「最初はライターの仕事をなめていた」と当時を振り返りました。

「ライター」とは、どんな仕事なのか?

ライター志向を持ちながら、ジャーナリズムの世界で育った石戸さん。もともとものを書く職種ですらなかった古賀さん。紆余曲折を経ていまがあるおふたりに、そもそも「ライター」とはどんな仕事なのかを聞いてみました。

「ライターというのは、ニュースをつくる仕事であるというのが僕の第一の定義なんですよね」と石戸さん。「インターネットで話題になるというのはどういうことなのか、と考えると、それはニュース性があるからだということになると思う。つまり、noteでよく読まれているものも、僕から言わせればニュースということになります」

古賀さんは、「ライターの定義は、広いことに意味があると思うんです」と言います。「たとえば僕は自分のことを『ライター』としか名乗っていません。全部含めてライターだと思っているからです。だからライターが小説を書いたり、詩を書いたりしてもいいと思う」

インタビュー取材のさい、「質問表」は用意する?

仕事に対する考え方も聞いてみました。たとえばライターの多くが生業にする「インタビュー取材」について。インタビューするさいは事前に対象についてよく調べることはもちろん、当日どんな質問をするか考えておく必要があります。初心者ほどこまかい「質問表」を用意してしまいがちですが、石戸さんは「想定通りだとつまらない。こまかい質問表は用意しないようになった」と言います。

「質問表を用意するとそこに縛られてしまう。これは絶対聞かなきゃいけない、ということを3つぐらい用意しておいて、あとはもうその場の空気に任せてしまうのが自分にとっては一番いい」

イベント風景1

古賀さんも、「インタビューの現場ではブレーキをかけてはいけない。ニュートラルかアクセル」と言います。

「事前に立てた計画表ほどつまらないものはないですからね。自分の枠のなかだけでなく、その場で相手との相乗効果で自分が想像もしていなかった何かが出てきて初めてインタビューはおもしろくなる」

イベント風景2

インタビューは出たとこ勝負でもあります。事前準備を入念にしていても予定通りにはいかないことも。相手が想定外のことを言ってきたときに、慌てるのではなく、たのしんで深掘りしてみるのもいいかもしれません。

ライターに「専門分野」はいらない?

ライター入門書のようなものに必ず書かれているのが、「専門分野を持ちましょう」の一文。しかし、石戸さんは「ノンジャンルでもいい」と言います。

「ジャンルを決めてしまうほうが楽なんですよ。そのほうが食いっぱぐれることもないかもしれないし、本当にそのジャンルが好きなんだったらそれは自分の武器になる。でも、『何か自分の専門分野を持たなくちゃ』となんとなく決めたジャンルって、長続きしないと思うんです」

古賀さんも、「専門ライターはこれからちょっと厳しくなると思う」とのこと。その理由を、漫画家の西原理恵子さんに取材したときのお話を交えて教えてくれました。西原さんは、もともとの志向とは違う雑誌で描いたことがきっかけで仕事がふえたそうです。

「得意分野というのは他人が見つけてくれるもので、自分でこれがやりたいあれがやりたいと考えても絶対に得意なところには行けない、と西原さんがおっしゃっていて。ライターの仕事もたぶんそうだと思うんですよね。他人に『あれよかったからもう1回書いて』って言われたところにどんどん進んでいけば、それが自分の得意分野になる」と古賀さんは言います。

談笑する古賀さん2

自分が読みたいもの=みんなが読みたいもの

書く領域をどうするかは、ライターにとって悩みの1つ。石戸さんは、フリーになったときに、あらゆる仕事を断らないと決めたそうです。「自分の得意分野ではない分野のインタビュー取材でも、イチから聞いてみたほうがいい内容になることもある。自分に制約をかけるのではなく、そこを突き破って、新しいことをやろうとすることが大事」

談笑する石戸さん3

古賀さんは、若手ライターにはあえて苦手な領域に行ってみろと勧めているそうです。「苦手がたくさんあるほうが強みになるんです。わからないひとと同じ立場に立って伝えられるので」

石戸さんも、「ニュースの要素である『謎』と『驚き』はシロウトだから得られるものがある。取材する自分が知らないということは、おそらく世の中の8割のひとにとって発見であるはず」と言います。

「庶民の代表でいようと思っています。そうすれば『自分が読みたいもの=みんなが読みたいもの』となる」と古賀さんは教えてくれました。

真面目じゃないと生き残れない時代になる

「ライターとして活躍するためにはとにかく真面目であること。大谷翔平さんしかり、久保建英さんしかり、これからは『真面目の時代』がくると思う」と古賀さんは言います。

「ちょっと前までは真面目であるのはカッコ悪いこととされてきたけれど、これからは真面目に自分の仕事に人生を捧げるようなひとたちが大きな果実をつかんでいく時代になると感じています。とくにフリーで長くやっていこうと思ったら、真面目さや誠実さがないと潰れてしまう」

談笑する古賀さん3

石戸さんも古賀さんの言葉にうなずきながら、「ライターは資格もいらないし、自分でライターだと名乗ればなれてしまう。だけど、真面目にきちんとした仕事ができているというひとは、じつはすごく少ないと思う。長く活躍されているひとたちはやっぱり真面目で、仕事がしっかりしてますよ」と指摘しました。

クラウドソーシングで簡単にライターの仕事をはじめることができるようになったいま、ライターの数はふえ続けています。しかし、おふたりがおっしゃるように、ライターという仕事に真面目に向き合い、長くコツコツと続けているひとは、意外に少ないもの。

「ライターの数がふえるということはライターの平均点が下がるということ。俯瞰して考えると、そういうふうに全体の色が薄まっている現状はチャンスなんです。いまライターの卵だというひとたちも、薄い色の卵がいっぱいあるなかで、自分が真っ赤な色の卵になればいい」と古賀さん。

交換可能なライターではなく、自分の色を持ったライターになること。一つひとつの仕事を真面目にやり、自分を信じて続けていけば、必ずプロの編集者が探し出してくれるでしょう。

イベント風景3

石戸さんも古賀さんもプロとして高みで活躍されていますが、決してnoteのクリエイターとまったく違う次元でものを考えているわけではありません。noteでものを書き続けているクリエイターのみなさんにとって、おふたりのお話はヒントになるのではないでしょうか。

イベントの動画はこちらからご覧いただけます。おふたりの最新刊も、ぜひご覧ください!

text by 渡邊敏恵

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