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就職先を斡旋してくれ

お気に入りの場所がある。高速道路沿いに併設している道路で、散歩の帰りによくここに寄る。背後から車の音が響き、それでいて人通りは少なく、妙に閑散としている。この真下にはトンネルがあって、赤いランプが回転し続けている。ここ最近、月に見られている気がして落ち着かない。月は太陽の光を反射して輝いているのだから、間接照明と呼んでもいいかもしれない。

そろそろ就職しなくてはならない。なぜなら金がなさすぎるから。お前らの言う「金がない」とは格が違うレベルで金がない。確かに俺は実家暮らしだが、それにしても金がない。娯楽がない。最近はギターで遊んでいる。一人で「あーここエグw」とか言って一生遊んでいる。朝の四時だろうが、昼の一時だろうが、夜の十時だろうが、「あーここエグw」である。隣の部屋から無職の姉が壁ドンをしてくる。同じ無職同士、仲良くしてほしいところである。高卒で無知だからあまり曲を知らなくて、有名であるがaikoと槇原敬之はエグい。あんなのガキの頃に気付けるわけない。今もガキだが。気付けないガキと気付けるガキではもうすんごい違うのだ。あと、嵐のMonsterはマジでエグかった。ギター弾ける人いたら弾いてみて下さいエグいので。(百聞は一見に如かず。俺からの説明は「エグい」だけで十分なのである。)

そんなこんなで金がないから、一日中家に引きこもっているか、車で海に行くかの二択を彷徨っている。流石にキツいので、机の上に散らばっている小銭(主に十円玉)を一生懸命拾い集めて外に出た。自分の部屋は汚ければ汚いほど居心地が良いと思っており、お釣りなどで出た小銭は机の上に棄てている。

1、2、3、4、、、21枚ある。10円玉を21枚握りしめて家を出た。もう厚着せずに外に出れる季節になった。夏の極端に暑い日や、冬の極端に寒い日などによく「こういう適温の日に死んでおくべきだな」と思う。

なんとなく猫背で進む。メガネのレンズの汚れが月明かりで綺麗なフィルターになっている。なんやかんやあって目当ての自販機に到着する。外国人がたくさん住んでいる団地の中にそれはある。なんとここでは、230円に値上げしたはずのモンスターエナジーが210円で売っているのだ!無職にとってはこの20円の差でありがたい。ンホーwと思いながら近づく。

うわ

何?確かにこの前までは210円だっただろう。なんなら190円だったはずである。二段階値上げ?原付かよ。

2月11日 中原のインスタのアーカイブより

めっちゃ情けなかった。本当に悔しかった。友達に電話かけて状況を説明した。客観的に見ても情けないといわれた。自他共に認める情けない男が爆誕した。その情けない男は、情けない足取りで、情けなくない祖母の家に向かった。

家に侵入し、寝室の電気をつける。老人が寝てる時の呼吸は浅すぎる。本当だからだ。何を言っても起きなかったから、掛け声は「ばーちゃーん」から「バーチャニウスドラゴン」に変化し、「ネクストコナンズヒント、ローソン」に変化したところで起きてくれた。

「おばあちゃん、おはよう。20円くれない?」

アー情けなさすぎる。本当に申し訳ない。マジ血眼になって仕事探すから許して…。

おばあちゃんから1100円をもらった。何で?
「ちょっとおばあちゃん、55倍ですやん」
とハッキリ指摘したが、「?」と言う顔をされた。優しさってこれのこと?不器用にも程があると思う。愛も優しさも見えないから苦しい。

そんなこんなでモンスターを購入し、おばあちゃんちにあったラスクを頬張りながらこの「お気に入りの場所」で文章を綴っている。もう定価で売ってる自販機には興味ない。一生行かない。月はさっきより上に登り、情けない無職を冷たい目で見下していた。

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