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社会医学系専門医について

【Intro】
おはようございます。Adamです。先日社会医学系専門医なるものの存在を知りました。ツイートも想像以上に反響があり驚いたのですが、その反応を見る限りでは医学生だけではなく医師の中でもその認知度は低いことが予想され、響きの良い言葉を使えばブルーオーシャンなのかも知れません。早速公衆衛生学教室の教授にライフプランについて伺ってきたので、私の考察も交えつつ共有致します。

【社会医学系専門医とは】
社会医学系専門医は日本専門医機構とほぼ同時期に設立されました。日本専門医機構は第三者機関による臨床専門医の質の担保を目的に設立されましたが、社会医学系専門医はそれまでそもそも専門医のようなものがなかったため同様に専門医プログラムを構築しました。(ざっくり説明ですいません)1口に社会医学系専門医と言ってもその実は多岐に渡ります。"系"なので。


【プログラムについて】
現在では各都道府県に少なくとも1つ以上のプログラムが整備されています。全体としては75個と、臨床後期研修に比べると数は少ないです。
大まかなプログラムは臨床後期研修と同じで臨床初期研修を終えた人が対象で研修期間は3年間です。
最も異なる点は臨床後期研修が就職とセットであるのに対して、社会医学系専門医ではプログラムが雇用と連動していない点にあります。文字通り雇用先は別で自分で探すことになります。そして学会に1つ(以上)所属し主分野を選択します。社会医学"系"専門医なので内科のようにサブスペをその後取るといったシステムではなく、あくまで全体的に学んで取るといった感じです。今後サブスペを導入する可能性はあるそうです。

学会は以下の通り
◎日本衛生学会
◎日本産業衛生学会
◎日本公衆衛生学会
◎日本疫学会
〇日本医療・病院管理学会
〇日本医療情報学会
〇日本災害医学会
〇日本職業・災害医学会

※先生曰く上記のうち上4つ◎が狭義の公衆衛生学だそうです

分野は以下の通り
〇行政・地域
〇産業・環境
〇医療

※1つ主分野を選び、残り2つは副分野として研修

いきなり情報過多になってしまいすいません。分野も多いし自分で別の働き先を見つけなあかんしでハードルが高いように感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、そこについては安心しても良さそうです。というのも、そもそものなり手が少ないためプログラムは柔軟に組んでもらえそうです。これは多くのプログラム要項に書いてあります。少なくとも弊学では今まで1人も専攻医がおらず、第1回専門医試験の受験者数は25人です(ちなみに合格割合100%)人が少ない分、手厚く指導するとの事でした。

【臨床研修選びについて】
単刀直入に結論から言うと、特に何も考えなくていいそうです。というのもそもそも初期研修は各科を軽くローテするだけでその科の医者として使い物になるかは別だからとのことです。産業保健が回れるところも実際あるのですが(日本鋼管福山病院など、そのため私は視野に入れていました)オマケ程度と考えそれを決め手にしないようにと言われました。よく考えたら当たり前のことですね笑。これは臨床医を志す場合にも同様だと思います。

【MPHについて】
MPH;Master of Public HealthやSPHなど公衆衛生学を学ぶ場所は他にもあります。日本では東大京大北大、海外だとJohn's Hopkins Universityなど名だたる大学がその名を連ねています。しかしながら、そこへの進学へは医学科の生徒の場合先生はあまり肯定的ではありませんでした。公衆衛生学について学ぶのは専門医プログラムで十分であり、医学科は6年制であるため研究がしたければDoctorとしてそのまま大学院に進学することができるそうです。学歴として欲しければ良いがMPHを取ったからといってキャリアや昇進に響くことはないとのことでした。

※2021/5/15に東京大学SPHのイベントがオンラインで開催されるので参加してみるのもありかと思います。

【社会医学系専門医取得後の進路】
社会医学系専門医のプログラムは繰り返しになりますが就職とは独立しているため臨床研修終了後から就職先を探すことになります。専門医があることで大きく進路の幅が広がることはありませんが臨床医と研究医のように、社会医学系医の中でも実践系と研究系があるそうです。

〇実践系:保健所や産業医、医系技官など
〇研究系:大学など

が主な進路です。大学で勤務する人でもバイトがてら産業医など実践を行う人も多いそうです。

【処遇】
これは公衆衛生医師のキャリアパスと社会医学系専門医、という動画内で紹介されていた1例です。
https://youtu.be/bXrwwmXBgfM

この話者によると1,300万円以降の伸びは緩やかだそうです。慢性的に人手不足にも関わらずこの給与とは、明らかに改善されるべきです。
各地域の保健所の処遇について調べてみましたが中途採用も受け付けており基本的には卒後年数により給与は変わるようです。臨床医に比べるとやや給与面では劣るものと思われますが、完全週休二日制でオンコールなし、当直なし、という求人が多く、特に女性や自分のペースで働きたい人には魅力的であると感じました。平成30年度の性・年齢階級別にみた医師数という統計に公衆衛生医がなかったため正しい比較が難しいのですが、全体の女性医師の割合は21.9%(平成30年度)で東京都公衆衛生医の女性の割合は62%(平成30年4月1日現在)と、3倍近くの女性が働いていることが分かりました。しかし有給消化率や勤続年数、平均年齢は考慮していません。市中病院の場合、お子さんが居ると当直免除といった病院もあるので一概に市中よりも公衆衛生医の方が楽とは言えません。まぁ独身の女医の立場とは、とも思いますが触れてはいけない領域なのでここでは言及しません←

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/joho/soshiki/hoken/hoken/oshirase/faq.html


【学生のうちからしておくと良いこと】
先生に伺ったところ、学生のうちから質の良い論文を読むことが重要であると教えて頂きました。初学者がよく勘違いをしていることとして、(医療・生物)統計学を学びさえすれば真実を知ることができるのは大きな誤りであるそうです。私自身医療統計学に興味があったのですが一蹴されてしまいました。統計学には、GIGO;garbage in, garbage out という金言があり、要はゴミデータからはゴミのような結果しか出てこないという意味です。統計学はあくまで手段にすぎず、とにかく地道に研究デザインや目的を学ぶことが先決であとは教科書に出てくる単語を不自由なく使えるようにしなさいと教わりました。臨床医になる場合でも研究をする人もいるのでいずれにせよ重要であると感じました。

先生がオススメしていた教科書は
〇基礎から学ぶ楽しい疫学(中村好一)
で公衆衛生のときに買って使っているものがあったので私はこれで勉強していこうと思います。(他にもレジュメで紹介されていたので気が向けばあとで書きます)

また、質の高い論文が多いサイトとして
Journal of Epidemiology
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jea/31/0/_contents/-char/en
をあげていました。曰く日本の研究は質が海外と比して高くないため海外の論文を読むことを推奨されました。もちろん英語も重要です。

【その他】
〇産業医について
社会医学系専門医では日本産業衛生学会専門医を取得することが可能ですが、これは日本専門医機構で臨床専門医を取得後研修を受けることでも取得可能です。また産業医として働く場合は認定産業医という資格があればよく、これは初期研修中に取れる病院(産業医科大学/千葉ろうさい病院など)もありますし、防衛医科大学校/自治医科大学/産業医科大学などで数日講習を受けることで取得できます。臨床研修後すぐに産業医として一生を終えたい場合は認定産業医のみで十分かと思われます。もちろんこれで必ずしも一生食べていけるとは限りません。

〇医系技官について
先生が下さった資料の中に医系技官の募集要項も入っていたので調べてみたところ少し闇を感じました。給与は一般職の職員の給与に関する法律に基づき行政職俸給表(一)に適用とあり表を見てみると多くとも月60行かない程度でした。基本給以外にも賞与や手当があるかもしれませんが、国家公務員法第16条にはこのような記載があります。
国家公務員法 第16条
労働組合法(昭和24年法律第174号)、労働関係調整法(昭和21年法律第25号)、労働基準法(昭和22年法律第49号)、船員法(昭和22年法律第100号)、最低賃金法(昭和34年法律第137号)、じん肺法(昭和35年法律第30号)、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)並びにこれらの法律にもとづいて発せられる命令は、第2条の一般職に属する職員には、これを適用しない。


闇が深すぎてヤミラミになってしまいました。これはあくまで自称元医系技官のブログレベルの情報ですが、雑務が多い・長時間労働・薄給であるとの記載が散見されました。一方でハーバード大学院への留学や海外派遣などをポジティブに捉える記事もありました。これらの情報については平均給与や勤続年数などが不明であるため確実なことは言えませんが、2021年2月18日日経新聞の記事によると河野太郎氏が残業代を初めて支給させたとの記載がありブラックであるということは黒に近いと思われますが、今後改善する可能性もあります。また医系技官には各大学からの派遣もあるため臨床医の場合でも飛ばされる可能性はあります。


【まとめ】
社会医学系専門医を志す場合、臨床研修先選びについては特に考慮すべき点はなさそうです。後期臨床研修とは違い専攻時には別の働き口を探す必要はありますが、そもそもなり手が少ないためプログラム実施の責任者と話し合い柔軟に対応してもらえると思います。
社会医学系専門医について選択肢の1つとして知って頂けますと幸いです。私もまだまだ時間があるのでのんびり考えていきまつ。長文乱文失礼しました。

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