介護職員の生産力を上げて人手不足を解消しない限りロストケアは続く
映画『ロストケア』
斯波は42人の要介護者を殺害する。
その一人目は自分の父親。
父親は認知症を患い寝たきり状態。
斯波は仕事をやめて付きっきりで父親を介護する。
父親の年金だけでは生活できず生活保護を申請するも断られる。
斯波の負担は限界に達して白髪に変わる。
ある日、認知症の父親が我に返り「殺してくれ」とつぶやく。
斯波はロストケアを決断する。
斯波が父親の介護で介護サービスを利用するシーンはない。
原作は2013年に刊行された小説。
10年前は介護サービスが手薄だったのだろうか?
2012年度と2022年度の介護保険の給付件数を確認してみた。
2012年度 → 2022年度 (増減率)
居宅介護サービス 1億1803万件 → 1億4633万件 (+23%)
地域密着型サービス 402万件 → 1116万件 (+177%)
施設介護サービス 1062万件 → 1162万件 (+9%)
合計 1億3267万件 → 1億6911万件 (+27%)
要介護者1人当たりの給付件数を比較してみよう。
2012年度 → 2022年度 (増減率)
要介護者 561万人 → 689万人 (+22%)
1人当たりの給付件数 23件 → 24件 (+4%)
1人当たりの給付件数は今も10年前も変わらない。
介護サービスが手薄だったわけではないようだ。
斯波は父親の年金頼みだったので1割負担さえ捻出できなかったのだろう。
給付件数を眺めていると気づくことがある。
居宅介護サービスの給付件数が他と比べて圧倒的に多い。
そのうち30%は訪問サービス。
介護職員が要介護者の自宅にやってきて介護をしてくれる。
しかし、介護職員は人手不足。
介護職員の必要数は年々増える。
日本の労働力人口は年々減る。
介護職員を大幅に増やすのは無理。
このままでは介護職員の人手不足は解消しない。
介護職員はお金をかけても増やせない有限の資源。
訪問サービスは要介護者の自宅までの移動時間がかかる。
通所や宿泊のサービスは介護職員の移動時間がかからない。
介護職員の移動時間などの無駄を省いて生産力を上げるしかない。
地域密着型サービスと施設介護サービスは通所と宿泊が中心。
地域密着型サービス
グループホームなどで通所や宿泊のサービスを提供する。
自宅訪問もあるが定期巡回の形を取る。
10年間で給付件数が大幅に増える。
施設介護サービス
特別養護老人ホームなどで宿泊のサービスを提供する。
10年間で給付件数がほとんど変わらない。
特別養護老人ホームなどの施設数の推移を確認してみた。
2012年 → 2022年 (増減率)
介護老人福祉施設 6,590 → 8,494 (+28%)
介護老人保健施設 3,931 → 4,273 (+8%)
介護医療院 0 → 730 (-)
介護療養型医療施設 1,759 → 300 (-82%)
合計 12,280 → 13,797 (+12%)
案の定、施設数がたいして増えていない。
今後もたいして増えないだろう。
仮に国がお金を出して施設だけ作っても意味がない。
そこで働いてくれる介護職員が人手不足なのだから。
介護職員は慢性的に人手不足。
介護職員はお金をかけても増やせない。
介護職員の移動時間などの無駄を省いて生産力を上げる必要がある。
介護職員の人手不足が解消しない限り介護者を支援する余裕はない。
それはロストケアが続くことを意味する。
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