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ヨーロッパ的なるもの:小話1 ドライ・ジャニュアリー

【ドライ・ジャニュアリー】
 ヨーロッパ諸国は、年が明けると休むのは1月1日だけで、さっそく2日から働き始めます。ヨーロッパでは12月半ばからクリスマスをはさんで年末までが休暇シーズンです。人々の気分や社会の雰囲気的には12月25日が日本の1月1日に相当すると言って良いでしょう。クリスマスに向けては忘年会ならぬクリスマスパーティーや会食だらけです。家族も年末年始ではなく、クリスマスに集まります。

 社会に満ちていた祝祭気分は年が変わる真夜中の花火でお終い。英国では、年が明けると多くの英国人が酒断ちに入ります。宗教的儀式ではありません。「ドライ・ジャニュアリー」というキャンペーンに参加する為です。「ドライ・ジャニュアリー」は1月の1カ月間、酒を飲まないというキャンペーン。発端は、エミリー・ロビンソンという人が2011年2月に初めてハーフ・マラソンに参加しようとしたことから始まります。その参加への意欲がわかず、前月の1月の1カ月間、酒を断ってみようと思いつきました。その結果、体重が減り、睡眠が改善し、走るエネルギーが湧いて来る経験をします。

翌年、彼女はアルコールの害を減らす運動をしているチャリティーグループ「アルコール・チェンジUK」に入りました。そこで仲間たちと1カ月間の断酒経験をシェアしたことから、2013年からこのキャンペーンが始まりました。賛同する人が年々増え、2017年には400万人、2021年にはほぼ英国の全人口の10%に近い650万人にもなりました。参加者は1月の間中、公私のイベントや会食に参加してもアルコールを飲まないか、アルコールフリー飲料を選択します。日本のように新年会が無い社会なので、賛同を得やすいとは言えます。

 英国の大学も医学的効果を調査し、参加者は期間後、血圧、糖尿病リスク、コレステロール値などが低下したとしています。一方、参加者自身も71%が睡眠が改善し、エネルギッシュになり、65%が健康状態の改善を実感し、また86%がお金を倹約できたとしています。

 かたや天気です。年々ひどくなる一方の気候変動で、イングランドは年明け早々大雨になり、広範囲で洪水に見舞われました。「ドライ・ジャニュアリー」ならぬ「ウェット・ジャニュアリー」です。こんな中、田舎のパブのオーナーが、洪水に腰まで浸かりながら外のテーブルで、平然とギネスで乾杯して見せました。パブの中には、「ドライ・ジャニュアリー、但しここでは無し!」との看板。英国人らしさ満点です。

著書紹介:ヨーロッパ 個性的な古楽器たち

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