【創作】きれい好きの団子屋(2/5)

次の日──
団子を食べに来た常連の兄弟が団子屋へ向かうと、団子屋は休んでいました。
「ついこの前休んだのにまた休んでるぜ」
「兄さんよく見て見なよ。 掃除してるんだよ。 お奉行さまが来るからきれいにしてるんだね」
「にしても早すぎないか? 十日後だろ?」
そう会話をしながら兄弟は仕事場へと向かいました。

しかし、次の日も、次の日も団子屋は閉まったまま、団子屋の主人は掃除ばかりしていました。
さすがに気になった兄弟の兄は団子屋へ行き、団子屋の主人に話しかけました。
「なぁ主人。 掃除が大事なのは分かるが、そろそろ店を開けてはくれないか? お前さんの団子を俺たち兄弟は楽しみにしてるんだ」
しかし、主人は
「お奉行さまがいらっしゃるんだ。 どれだけきれいにしても、し過ぎる事はないよ」
そう言ってこちらを見る事無く、机の上や裏、床の隅、食器棚の隅……と、あらゆるところをせかせか掃除し続けました。 既に前の日に掃除したであろうところもまた雑巾を持って拭き始めました。
「しかしよぉ、どんだけ店をきれいにしても味が落ちちまったらその方がお奉行さまは悲しむぜ?」
「たった数日団子を作らないで味が落ちるなんて事あるかい! さぁさぁ帰っておくれ」
団子屋の主人は常連の兄の顔を見ずに言いました。
「そうかい、悪かったよ。 ちょいと心配だったんでな。 好きなだけきれいにしてくれ」
これは聞く耳持たないと感じた兄は、諦めて帰っていきました。

そしていよいよお奉行さまが来るという日がやってきました。
兄弟はあれから団子屋に足を運ぶことは無かったものの、さすがに気になってお奉行さまがお忍びでやってくるのをこっそり遠くから見ていました。
「お奉行さまが帰ったら俺たちも久しぶりに団子食べような。 弟よ」
「もちろんだよ 今日はお互い仕事も休みだし、のんびりいっぱい食べたいねぇ」
そう兄弟が話していると、2人の男の客が現れました。
普通の身なりをよそおっているものの、どこかぎこちない感じに、兄弟は2人がお奉行さまと、この前の役人だと分かりました。

ほどなくしてゆっくりと団子屋の主人が現れました。
兄弟はそのただならぬ様子を感じ、心配しながら見ていると、団子屋の主人が体を低くして深々と頭を下げたまま動かなくなりました。
「な、なんだなんだ! 何かヘマしちまったのかぃ……あの主人。 やっぱり味が落ちちまって出せないってなったんじゃ……」
「かもねぇ。 お奉行さまが帰ったら励ましてあげようよ兄さん」
「あぁ、あぁ、もちろんだ。 だが今回はお前から話しかけてやってくれ。 俺じゃ気まずいだろうからな」

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