【創作】きれい好きの団子屋(3/5)

お奉行さま達が帰って行くのを見届けた兄弟は、うつろでぼーっと立ったままの団子屋の主人のところへと向かいました。
常連の弟がまず話しかけました。
「やあ主人……。 大丈夫かい? 俺たち、心配でこっそり見ていたんだが、何やら妙な事が起きたみたいで……良かったら俺たちに話してみてはくれないかい?」
弟が優しく言うと、目も体も動かさずに団子屋の主人はボソッと言いました。
「材料を……仕入れるのを……忘れてしまったんだ……団子の……」
『えええ!!』
「ああ なんてダメなやつなんだ私は!」

兄弟は何も言えず、シンとした時間が流れました。
その後、再び弟が話しかけました。
「そ、それでお奉行さまは……あそこから見ていた限り、特に凄いけんまくで怒っているようには見えなかったけど……」
「何を言われたか覚えてない……けど、怒ってはいなかった。 店を閉めろとも言われなかった……」
弟は言いました。
「そっか。 そりゃ良かった。 噂じゃあ、あのお奉行さまは、お奉行さまの中でも心の優しいお方だって聞いた事あるからねぇ」
しかし団子屋の主人は首を下げて言いました。
「でももう私はダメだ。 掃除ばかりして一番肝心な事を忘れた。 私はダメだ。 もう掃除屋にでもなろう」
そう言って頭を抱えました。
その後も弟が励ますものの、団子屋の主人は「私はダメなやつだ。 掃除屋になるしかない。 私はどうすれば良いんだ」と繰り返すばかりでした。

その変わらないやりとりを常連の兄はジッと聞いていました。
頃合いを見て静かに口を開きました。
「団子屋の主人よ。 お前さん、さっきから一番大事な事を一言も言っていないぜ」

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