【創作】きれい好きの団子屋(4/5)

常連の兄の言葉に、団子屋の主人は少しの間考えました。
しかし全く心当たりがありませんでした。
その様子を見て兄が言いました。
「お前さん、さっきから自分を責めてるだけで、今一番落ち込んでる人の事を忘れちまってる。 お前さんの団子を楽しみにしていたお奉行さまと団子を紹介したお役人の事がさっきから一言も出てこなかったぜ? それはちょいと良くねぇな」
団子屋の主人は納得せず、すぐに言い返しました。
「ちゃんと申し訳ないと思ってるさ!」
弟はケンカにならないかとハラハラしていましたが、兄は落ち着いて続けました。

「お前さん、今のまま掃除屋になってみろ。 また同じ失敗するぜ?」
団子屋の主人は話の意図が見えず、納得していないようでした。
常連の兄はさらに続けました。
「最初こそお前さんも、お奉行さまの為にと掃除していたと思うぜ? でも、段々と目の前の掃除自体に夢中になっちまって、周りが見えなくなっちまったのさ。 俺が心配して声をかけた時、俺の顔も見ず、掃除ばかりしてただろ? それに今だって自分を責めるばかりで周りを見る頭が抜けちまってる」
団子屋の主人は、認めたくないものの、やや下を向きました。
「だからもし掃除屋になっても、依頼してきたお客がもう十分だ、と言っても、話を聞かず延々と掃除し続けちまうと思うぜ? それじゃお客は喜ばねぇ。 相手を不快にしてまで続けるのは商売って言わねぇからな」

「……そんな事、言われても……」
気まずくなったところに弟が優しく言いました。
「そうさねぇ。 兄さんも気持ちは分かるけどちょいと言い過ぎさぁ」
弟の言葉に兄はハッとして、
「ああ、そうだな。 大変だったのに、色々言ってすまなかったよ。 ついお前さんが心配でよ」
と頭を下げました。
団子屋の主人ははっきりと顔には出さなかったものの、その言葉に少し嬉しくなりました。

それから数日、兄弟は団子屋が気になっていましたが、何となく行けずにいました。
そんな折、弟が小川で仕事の休憩をしていると、近づいてくる影がありました。 団子屋の主人でした。
「どうしてここに?」
「こ、この間はどうも……。 これからどうしようか考えていたら姿をお見かけしたので……」
「そうかぁ……」
団子屋の主人は、一呼吸して勇気を絞るように言いました。
「私に相応しい仕事なんてあるのでしょうか……」

常連だった弟はうーんと考えた後、言いました。
「そうさねぇ。 またあの団子を食べたい身としては、このまま団子屋を続けて欲しいんだけど、それが辛いなら……」
「辛い、なら……?」
「大工の手伝いでもなってみるのはどうだい?」

フォローやスキも歓迎です・・! いつもありがとうございます!