![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/124236770/rectangle_large_type_2_b82a6e43bf7d462b397fd5251edcdc1e.png?width=800)
Christie 原宿本店
東京喫茶あなたこなた
【Christie 原宿本店】
今でこそ、原宿も新宿でも一人で色々なカフェにスッと入れるようになったが初めて独りで原宿を散策した時は…お昼過ぎになるや否やどこのお店も列をなすサマにびっくりした。
(食事にありつけただけ幸せな事であるが)その時は、たまたま見つけたチェーンのハンバーガー店で済ませた。
Google Mapsがこの世に無かったら、そもそもこのエッセイを連載する事が出来なかっただろう。
今回紹介する竹下通りの隠れ家的紅茶店も、ネットの力を借りてようやく店の扉をくぐる事が出来た次第である。
ある年の秋。
JR原宿駅から近くに位置する美容室で3ヶ月に一回、カラー等の施術を受けるためこの日は二時間近く早く駅の改札を出た。
道中、JRで渋谷から山手線に乗り換えて原宿駅へ向かう電車の車窓から渋谷のスクランブル交差点周辺の大きな電子看板の広告を見る事もこの移動手段での恒例となっている。
実は、我が家は近所に田んぼがあって近くに牧場がある…という横浜市でもかなりのどかな風景が広がっている風景の中に育ったので初めてこの風景を見た時、
(と、東京に来た……!!)
なんて思った始末である。
ここ数年はネトフリなどのサブスクで見られるドラマの広告が流れているが、流行っているアニメの広告が数個の画面から一度にバッと流れる事もある。
だが…横浜からこの辺まで来ると、楽しいが少し疲れてくる事がある。
東横線というのはアクセスの良さからか必然的に乗り入れる人が多くて各駅停車にでも乗らなければまず座れない。
原宿に着けば、竹下通りは若者の聖地という事でかなりの人でごった返している。
それでも、私はこの地が好きだから通い続けるのもあるが…この場所にも静かでくつろげるカフェというものは存在する。
駅の方面から竹下通りへと入り、まっすぐ歩を進める。
目印は道の左手側にある大きなダイソーで、そこに辿り着いたらまず右側を向く。
すると通路右側に通路が見えるのでそっち側に進むとすぐ、通路左側に人物画が描かれた黒縁の落ち着いた看板があるのでそれが目印である。
この通りに入ると、段々と数分前まで竹下通りに居た事を忘れる程静かでこの紅茶店の先の曲がり角を抜けるとある“ブラームスの小径”というヨーロッパを思わせる通りを、
(後で時間あったら、散歩してみようかな……)
と思いを馳せて扉を開ける。
鈴の音が鳴り、ほの暗い室内にジャズピアノが流れ入り口付近の飾り棚には茶器が並べられた涼しい空間が現れる。
「一名様ですね、ご案内します」
とカフェエプロンの店員さんに案内されて奥の方の席へ。
席に着くと、年季を刻んだテーブルにメニューが置かれる。
それを見ると、“イングリッシュ・ブレックファースト”というイギリスの朝食メニューが一日中頼めるとあり、下にモームの、
『イギリスで美味しい食事をとりたければ、毎回朝食を頼めば良い』
という言葉が書いてあった(恐らく、ニュアンスとしてはジョークの類だろう…)。
これはいずれ頼むとして…ここに昼食をとる時には毎回決めているメニューがあるので余り迷う事なく数分後には、
「すいません」
と店員さんを呼び出し、ランチメニューからサンドイッチと紅茶を注文する。
いつもBLTサンドイッチを頼むのは、シンプルなメニューながら家では再現出来ない奥深い味わいをいたく気に入ってしまっているからである。
ここは、本当に客層が幅広い。
年配の素敵なご婦人二人が来店してこの前図書館で借りた本の話をしている傍ら、数席離れたところでバンドマンっぽい兄ちゃんがコーヒーを啜っている事もたまにある。
ラフォーレのグランバザールの時にもこのお店に入ったが、やはり私と同じロリィタの方がパニエで膨らんだスカートを座席に預けて紅茶を飲んでいた。
クリスティー、という名も相まって(その昔“アガサ”という看板が上にあったようだ)対象年齢は全体的に高めで、竹下通りやラフォーレ周辺のカラフルでインスタ映えカフェとは一線を画している。
ここ数年、原宿周辺に来るとほぼ毎回と言って良いくらい訪れているので4~5回の付き合いにはなるだろうか……。
80年代、世がDCブームの頃の原宿文化の名残が今も残っている“文化系乙女”の場所を見つけた時の感動は大きかった。
ここのティーセットも、紅茶好きの知的好奇心を刺激するのにはうってつけである。
ティーカップはマイセンやウェッジウッドのものだが、ポットは白磁器に青い文字で“MUSICA TEA”と書かれている。
なんでもムジカポットという関西の老舗紅茶店(元は音楽喫茶)のポットで、紅茶の茶葉もそこのものを使っているとか。
ランチメニューを頼むと、そんな紅茶器がまず運ばれて目の前で琥珀色の飲み物がカップに注がれる。
ニルギリ、と呼ばれる銘柄らしくシンプルながらとても美味しいブレンドである。
紅茶を啜ってボンヤリしていると、頼んだBLTサンドイッチと付け合わせのサラダが白いお皿に乗って運ばれてきた。
大体の確率で、腹ペコの状態でこのサンドイッチにありつく人間である。
だが(味も上品なのでペロッと平らげてしまうのだが)恐らく大きめの食パンが二枚で4等分されているからか食べ応えもある。
中に入っているマヨネーズソースも美味しいし、ベーコンの塩味も絶妙なのだ。
箸休めに食べるサラダも来る日によってバリエーションがあり、どれもドレッシングや野菜の味まで美味しいので、
(もっと、生野菜ちゃんと食べなきゃな……)
と思いつつ口に運んでいる。
お会計を済ませて竹下通りの喧騒にまた戻る。
だがあの喫茶店を出る時にはもう疲れというのは飛んでいて、
(帰りには、いつも通りラフォーレに足を伸ばそうかな……キディランドに寄ってもいいし)
と、いつもの可愛いもの収集に思いを馳せて美容室へと向かうのである。
この後、例によってキディランドの1Fちいかわブースでもみくちゃにされて帰ってくる次第であったが……。
執筆 むぎすけ様
挿絵 シエラ様
投稿 春原スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?