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横浜喫茶あなたこなた①

【WHITE.】 (山手)
 
私はどんな喫茶店やカフェだろうと、臆さず一人で入ってきた人間である。
が、インスタで目にした無機質な白壁とラタンのランプシェードが同居する今ドキのインテリアに興味を覚えると同時に……
(明らかに10代向けのカフェ、入っても周りと浮かないかな?)
カフェなんて誰が入ろうと自由である。
だが今時とはほど遠い私はガラになくそれから3ヶ月、最寄りのJR山手駅に降りなかった。
急に思い立って行くタイプの人間なのだから仕方がない。
3ヶ月目にようやく桜木町から大船方面に一駅、ひょいと降り立ったのだ。
山手駅、という名前から想像していたものとは違う、下町風情あふれる風景が広がっていた。

(横浜にこんな場所があったのか…)
古本屋や骨董屋を追い越していくこと10分、木目の扉が開く白い外壁…最初は通り過ぎそうになったその場所はコーヒーの匂いと共に佇んでいた。
扉を開けると窓際の席に通される。
コンクリートの壁で覆われているのに照明の絶妙な濃淡と要所の籐編みの家具のある空間が心地よく感じられ、コーヒーメーカーの唸る音ですらもBGMのようだった。

注文したのは秋のスイーツプレート。
先にお会計を済ませて待っている間、(不躾と分かってはいるけれど)隣の席にいた女子大生二人の噂話を私はスマホをいじるふりをしつつ聞き耳を立てていた。
(こういう内装を韓国インテリアと言うのは知っていたけれど、やっぱりK-POPアイドルを推す子達も来るのね……)
と、彼女たちがテーブルに置いているアイドルのアクリルスタンドに目をやる。
その後すぐ、栗色のお菓子が並んだ陶器のお皿とアイスティーが運ばれた。

まず、この店の名物であるカヌレに手を伸ばし、私は己の采配が正しい事を悟った。
ほんのり暖かい。固くぱりぱりとした外側とむっちりした生地の美味しい菓子に
(流行ったのは、当たり前だ…!)
と店の天井を見上げ自然と口角を上げた。美味しいものを食べたときの私の癖である。
上に栗とモンブランクリームをかぶった栗のチーズケーキ、最初に見たとき
(濃い味なのかな…?)
と恐る恐る口に運んだ。

確かにチーズケーキはちゃんと濃厚で、モンブランペーストは口に入れただけで秋の風すら感じるほど濃厚だ。

小さなパウンドケーキを食したあと、グラスに盛られたコーヒーゼリーを一口含むと……
それまで、甘いものが続いたのでお腹いっぱいなのもあって眠気すら覚えていた。
だが、砂糖を入れてないであろうゼリーによって目を見開く。
大人のコーヒーゼリーだった。
このカフェがコーヒーショップも兼ねているからだろうか。最後のゼリーが一番好きだ。
(今度来るときは、飲み物コーヒーにしようかな……)

小説を書くとき、こういう場所の隣のお客さんの会話から次の展開や次作のテーマを閃く事もある。
普段いかない場所や流行りの場所にも、足を踏み入れるようにはしている。
無駄足だった事は一度もない。

次はどんな世界を見ようか……

ゆっくり、山手駅へと歩を進める。周りに広がる住宅街を目に焼き付けるように。

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