おひるね主婦の『キ・ド・アイ・ラク』
喜怒哀楽
喜
若葉の緑が目にしみるころ
教室にアニメの推しキャラをアツく語る
君を見つけた
私も負けじと応戦する
語っていたらいつの間にか
卒業を迎えてしまった
ストーリーの展開予想に
負けた時は悔しかったな
あなたがいいというから見た作品
ガッカリだったりもしたっけ
想いは伝えなかったけど
それが心残りなんじゃない
ただあなたともう一度勝負がしたい
ただ それだけ
怒
SNSには丸く輝く
月のような人達が溢れ
メディアはそれをもてはやす
そんなことをするから月の裏側が欠けていると
人々は大騒ぎ
なんと不毛な関係なのだろう
欠けているのはそんなに悪いことなのか
欠けた証明を持つ私は思う
月が人前で堂々と
欠けた姿を見せるように
私も欠けたままの私を見せたい
いつかそれが
普通になることを願って
哀
雨が降っている
私の心の中を
強くもなく弱くもなく
ただひたすら
降り続いている
いつかは必ず晴れる
その言葉すら刃のように
心に冷たく突き刺さる
私はどうすればいいのだろう
あてもなく街を彷徨う
華やかなネオンにはじかれるように
迷いこんだ路地裏
見つけた一匹の野良猫は
背中を丸めうずくまる
私もあんな風に丸まれば
少しは暖もとれるのだろうか
かじかんだ体に
そっと手を添える
こんな雨の中でなければ
気づかなかっただろう
体温
頬をあたたかいものがつたう
街にはたくさんの人が行き交う
きっとその中には
心の中がずぶぬれになりながらも
歩みを止めない人もいるのだろう
それが正しいことなのかどうか
私にはわからない
ふと誰かの声が聞きたくなって
スマホに手を伸ばす
しかし指先は動かない
誰かに話せるほど
私はまだ乾いてはいない
いやそれを待っていたら
もっと雨は激しくなってしまうのだろうか
もう一度握りしめたスマホを手に
私は空を仰ぐ
楽
雨に濡れる私を
見つめる見覚えのある人影
やばいクラスの女子だ
気づいたときは遅かった
あんたがこんなところに
珍しいね
彼女は深くは追及しない
そんなに思い詰めないでさ
もっとずるくていいんじゃない?
こだわってるものが多いと
身動き取れなくなるよ?
図星だった
心を見透かさた私は
思わずうつむく
割り切れるところは
割り切ってさ
楽しめるところを
楽しもうよ
そう言った彼女の口元は
雨の中艶めいている
それ
どこのブランドのリップ?
私はおそるおそるたずねていた
今まで素通りしてきた
扉をなぞるような気持ちで
執筆 たぬっち様
挿絵 kyura様
投稿 顯
©DIGITAL butter/EUREKA project
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