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ゴールドを買う中国の若者

 Kitcoの記事によれば、中国では若年層がゴールドを買う動きが出てきているという。

 朱氏は、中国では金の購入は長い間年配の世代と結びついてきたが、最新のデータによると、金の消費者の大多数は1990年代以降に生まれたと書いている。

「中国の大手電子商取引プラットフォームである天猫(Tmall)と淘宝(タオバオ)は、宝飾品とアクセサリー業界に関する2023年の報告書で、金宝飾品の主な消費者は1990年代以降に生まれた人々であることを明らかにした」と朱氏は指摘する。「そして2022年、コンサルティング会社モブデータによる洞察レポートでは、Z世代の金購入傾向が2016年の16%から2021年には59%に急増し、全年齢層の中で最も高い支出の可能性を示していることが分かりました。」

業界の数字も、国内の金需要の劇的な増加を示しています。中国金協会(CGA)が7月に発表したデータによると、2023年上半期の中国の金生産量はわずかな増加にとどまったものの、金消費量は2022年の水準と比べて16.37%急増した。もしその大幅な増加が新世代の金虫によって引き起こされているとしたら、それは重大なことになるでしょう。

 「金虫」とあるのは、金投資家をあらわすスラングのgold bugsの訳だろう。

 しかしこの波は長くは続かず、若年層の投資は別のアセットに移っていった。なぜかといえば、次に書かれているように、貴金属現物への投資というものがわかりにくいものだからだ。 

クリスチャン氏は、この関心が具体的な投資に結びつかない理由の一つは、金属自体への投資方法についての明確で信頼できる情報が不足していることだと述べた。「理論的には、彼らは自分の富の一部を金や銀で持つべきだという議論を理解していますが、実際にやってみると、物理的な金属を所有するのはそれほど簡単で簡単ではありません」と彼は言いました。「その後、貴金属に関する情報を探し始めますが、主流の銀行や証券会社が必ずしも貴金属を提供しているわけではありません。」

 私自身も20代のころは、地金を持つなどということは経済的に非合理な選択であるとさえ考えていた。ゴールドやシルバーに投資するにしても、証券会社のアプリで手軽に売買できるETFを買えばよく、管理の面倒な地金を買うなどバカげていることだと思っていた。地金を買ったら売りに行かなければ換金できない。売りにいくにしてもいろいろとノウハウが要る。変な業者に売ったら安く買いたたかれることもある。

 大学の経済学部で教えているようなファイナンス理論は、ある資産の価値はそれが将来に渡って生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和だと教えている。株式や債券と違って、ゴールドの現物は利子を生まないので、ファイナンス理論的には価値がゼロということになってしまう。さらに流動性が高い、つまり手軽に現金に換えられるモノほど資産としての価値が高いということもあるから、手軽に換金できないという点でもゴールドには魅力がないと思っていた。

 そういうわけで、貴金属への投資はハナから敬遠されていたし、買うにしてもアプリで手軽にできるETFのほうがいいだろう、という観念にアタマを毒されていたのである。

 だがその後、自分で会社を立ち上げたり具体的な事業活動を始めたりする中で、銀行や証券会社が提供するサービスを経由した売買にもリスクがあることを理解した。経済学的にはカウンターパーティリスクと呼ばれるもので、相手方が債務を履行してくれないリスクだ。

 オンラインで売買するプラットフォームはいろいろあるが、私はビッグテックのお気に召さないらしくたびたびアカウント停止の憂き目に遭っている。収益化したとしてもごくわずかな額だったのでダメージは小さかった、というよりほとんど無きに等しいくらいだったので実害はなかったが、実際の経済取引におけるカウンターパーティリスクというものを身をもって経験した。

 さらに昨年2月のウクライナ侵攻によって、SBI証券ではルーブル建ての取引が完全にできなくなってしまった。私は以前ルーブルを買ってロシアの石油会社であるロスネフチの株を買っていたのだが、なんとなく虫の知らせで1月ごろ全部売却して、ルーブルも円に換えていたのでうまく逃げおおせたのだが、これもルーブル建ての資産を預けていたら引き出せなくなって困ってしまっていた。

 これを契機として、自分の手元に置いて、自分の手で握ることができないような資産はすべてかりそめのものだと思うようになったのである。だれかに預けておいた資産は、なんらかの理由をつけて引き渡してくれなくなるリスクが必ず存在する。これがカウンターパーティリスク(相手方リスク)だ。大学の机上の学問では理解できないが、つねに経済取引に存在するリスクである。
 
 ふたたび記事からの引用。

「私たちはこれらの調査を行ったところ、金投資家のほとんどは大学院の学位を持っていました」と彼は言いました。「彼らの多くは国際政治学や経済学の学位を持っていたり、世界中を旅した軍人でした。彼らは、紙幣と金に関して、政府は間違いを犯すものであり、金は優れた保護であるという、この種の世界観を持っていました。」

 そういうわけで、私は店などでスマホ決済をしている人を見るとなんとも言えない微妙な気持ちになる。一般的に通用する紙幣・貨幣(=現金)は、一般的な支払通用能力を持っているので、たとえばレジのシステムが落ちても現金を引き渡せばこちらの債務の履行は完了する。しかしスマホ決済やPASMOのような電子的なプリペイドカードなどの決済手段は、通信障害やシステム障害などが発生すると決済が完了できないリスクがある。だから現金よりはいくばくか価値が低いわけで、なんとかペイだので頻繁にセールや割引、ポイント付与をやっているのは、利用者がそのリスク分の費用負担を負わされていることになるからだ。この点においては、キャッシュ・イズ・キングとするファイナンス理論も間違ってはいない。

 だが、キャッシュがキングならゴールドはエンペラーだろう。


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