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欠陥品

私はずっと「母親が完璧な存在」だと教えられ、その完璧な存在には逆らうことが出来ないと思い、生きてきた。

どんな時でも、母には 私が「不完全」で「未熟者」で、「口答え」する「欠陥品」だ、と言われ続けてきた。

母の調子がいい時は、とても優しく温かく、私がいつも大好きな人になる。だが、母の機嫌が悪い時は、ただただ怯えて、機嫌を損ねないように言葉を選び、自分とぶつかりそうだと感じれば子供部屋に逃げ込んで、そっと息を殺していた。

社会人になってからはそんな事もなく、穏やかで自分のことを褒められる日がたくさんある。不器用なのは相変わらずだが、毎日それなりの達成感や安心感を得られていた。

だが最近になって、母の調子が悪くなった。身体ではなく、私への感情が と言った方が正しい。

母からの毎日電話は一方的な怒涛の愚痴大会で、ただでさえ社会人初体験で毎日悩む私にとっては 余りにもきつかった。母の電話すら取らなくなり、LINEで毎日2通ほどのやり取りに留めてしまっていた。

それが母の目には「親不孝」「思いやりのない人間」「家族を道具としか思っていない」「非道徳」「人間のクズ」といったものに映ったらしい。

母の頼み事を1週間だけ先延ばしにした。それが母の怒りのスイッチになったらしい。

前もって用事があることを伝えていても、母は怒り狂ってしまい、私を「育て損なった」と強く思ったようだ。

母は毎日毎日、弟と父、そして祖母の面倒を見てくれているので、母自身にも余裕が無いのだろう。母は本当に真面目で、近所からは優しくてしっかりしている人格者と認められる、優秀な人間だ。出来損ないの私の気持ちは分からないだろうし、考える余裕もないのだろう。

母が私を欠陥品だと言う頻度は、私が高校へ進学したくらいから徐々にエスカレートしていた。当時は何故こんなにも自分は母のことで悩み泣かなければならないのかくらいにしか思わなかったが、今では呪いのようだなと思う。

酷い時は本当に酷かった。言い返してしまう性の私も良くないが「死ね」「クズ」「出来損ない」「あんたなんか生まれて来なければよかったのに」「お前みたいな娘じゃない子が欲しかった」「弟はお前のようには育たない」「大学でそんなことも覚えてこなかったのか」「役立たず」…どれ程の言葉を受けただろうか。

母を信じて、褒めてもらいたくて。そんな私にとって、そんな存在の母からの言葉が鋭利な時、どれほど深く傷が抉られ、治らないうちに抉られ続け、治らなくなったのだろう。

そして今日もまた母にやられてしまった。完璧な「母」の価値観では、私こそが悪なのだろう。

今度は「結婚が出来ない、人間を利用する側の人間」という言葉をもらった。前よりは痛くないけれど、痛くないのは傷が出来なかったからではない、痛みを感じなくなったからだろう。

私は私を好きになれなければ、この先 私の命の意味を感じられないだろう。私自身を受け入れてあげなければ、誰かに何かを分け与えることは出来ないだろう。

だからまず、母が「完璧な存在ではない」ことを理解しなければならない。私は不完全だが、価値がない訳でもないし、私だって人生を楽しむ権利があると、心の底から思わねば生きられなくなる。

死にたいのではない、生きられないのだ。


でもこのままでは良くないと思う。抜け出さなければ変えられないと思う、変えようとはしているのだ。

友達に勧められてカウンセリングや精神科について調べるも、何度調べても「この程度のことを、お金をかけて相談するなんて」と画面を開いては閉じてを繰り返していた。

だけど無料なら、気軽にしてもいい電話相談なら…そう思って、ここに電話してみた。

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人気なのか、3回目でやっと繋がった。

柔らかな優しい男の人が出た。

「何か相談されたいことがあって、お電話くださったんですね。どうされました?」

既に泣いていた私は上手く話せなくて、あの…その…を繰り返した。

「お電話する勇気をよく出してくださいましたね。何処でこれを見つけられたのですか?」

ネットで探していたら見つけて、お電話させていただいて…と声が出る様になった。

「そうだったんですね。見つけてくださってお電話されたのなら、何か相談したいことがあられたんですよね?ゆっくりでいいので教えていただけませか?」

ゆっくりでいいという言葉で安心して、少しずつ話せるようになった。だか全て話し終えた後に、珍しく過呼吸になってしまい、電話口の方に申し訳なくて何度も謝った。

「ゆっくりで大丈夫ですよ、そうだったんですね……とても辛かったですね。よく頑張りましたね。」

特別な言葉をかけられた訳ではないのに、『誰かの肉声を通して認められた』それがとてつもなく嬉しかった。

彼はゆっくり続けた。

「お話伺った限り、あなたはとても真面目で優しすぎる方なんですね。よくここまで耐えられましたね、毎日お疲れ様です本当に。」

そんなことは無いです、と咄嗟に否定してしまったが、彼は何度も何度も念押しして、私が頑張れていると教えてくれた。

30分間ずっと話を聞いて、褒めて温めてくださり、解決策まで一緒に探してくださった。本当に本当に有難かった。


彼のおかげで、やっと心の受け皿が元に戻り、友人たちの励ましの言葉を受け取れるようになった。

明日は今日よりいい日になるだろうし、今日という日は二度と来ない。

少しずつ呪いが解ける方法を模索しようと思う、夜だった。



【追記】

売り言葉に買い言葉してしまうところは、私の最大の揉める原因です。母も同様ですが、母の言葉の鋭利さに勝てないのが私の最後の弱さですね。

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