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後願
いつもの通勤路、いつもの風景、なのにいつもとは違うものが今日はあった。
目に入った途端、それが何なのか認識できていない、コンマ数秒で、重い何かに呑まれて目が離せなくなった。
「何なのだろう、この空気は。なんて重くて苦しいんだ。」
重さの正体は、正直分からなかった。
生まれて初めて、全焼した家を見た。
骨組みが丸見えで、ほぼ形を留めない壁や屋根は黒く焦げ、あらゆる物が壊れそうに揺らめいている。
焦げ落ちた真っ黒な床に、艶やかな献花達が静かに座っている。
何十年もかけて造られた家や、思い出が一瞬で焼け切れたことが。
私と同じこの世で時間を紡いだ人が事切れてしまったことが。
焼けた後にぽつんと取り残されたその空間が。
…主語は出てくるのに、それに相応しい動詞や形容詞が出てこない。何だと言うのか。何と言えばいいのだろうか。
今更願っても遅いことだ。でも願わずにはいられないのだ。
どうか苦しくない死でありますように。
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