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屋敷の主に用はない

  目覚めたかった、こんな悪夢からは早く。

 最近心臓が痛い、どくどくと鼓動するその振動に体が圧迫されているような痛み。息を吸うと肺が膨らみ更に圧迫されていく、呼吸するだけでも辛かった。すすって食べるものはさらに痛みが増す。ラーメンが食えないじゃないか、チクショウ。

 どうやったら治せるのか、病院を訪ねてもわからなかったその治療薬はこの館にあるらしい。噂で聞いただけだが、気の狂った主人が一歩も外に出ず、実験をしているとのこと。行くか迷ってるヒマなんてない、早くしないと...息も苦しい...

 屋敷の主に見つかるな、気配を消して、足音にも気をつける、物陰に隠れて部屋を見て回る。どうやら2階建てに見えたこの建物、地下もあるらしい。下に降りる階段を見つけた...ただこの匂いはなんだ?臭いどころじゃあない、目に刺さり、肺を締め付けるこの匂いは!

 壁に肩を預けながら降りた先には部屋が一つ、すぐに入って扉を閉める。机を漁っていると階段から足音が聞こえる、忍び込んだのがバレたのだろうか。とにかくこのままではまずい、戸棚の影に隠れた。

 扉が開く...
「俺の屋敷を荒らしやがったのはどこのどいつだ!」
「ここに隠れてるのはわかってるんだぞ!」

もう見つかってしまう、時間の問題だった。

「こんなところにいたのか、バカな奴め」

 あいつは俺の頭を殴る。殴る。どうやら薬が効いたらしい、なんの痛みも感じなくなっていた。

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