J.M.WESTONのローファーのこと
社会人になって初めての海外出張の折、パリのJMウェストン本店で買ったローファー、#180。
確か70000フランくらいだったと思います。当時のレートで、日本円換算で10万円弱。今だともう少しするでしょうね。
1991年だから、もう33年間履いてるんだな。全然壊れません。ただ、今までにソールとヒールは青山のお店で2回張り替えています。
緊張しつつお店に入る。
日本を発つ前からもう何を買うかは決めてたので、目的のローファーを手に取って、これのサイズを合わせてほしい、とシューフィッターのアランさんに告げた。
何で名前を知ってるかというと、その人が最初に名乗ってくれたからです。尤も、通訳さんを連れて行ったんで理解できたんだけどね。
今、なにげなく「シューフィッター」と書いたけれど、当時、日本ではこの職業はほとんど知られていなかったはず。そういう専門職がある、とは聞いていたけれど。目の当たりにするのは僕は初めてだった。
アラン氏、素足になった僕の足の長さと、足の甲のぐるりを素早く測り終える。今度は足を手に乗せて、ニギニギムニムニと30秒ほど弄る。
と、したり顔で引っ込み、奥から恭しく靴箱を持ってきて、
「あなたの足にぴったりなのはコチラですムシュウ」と僕が指定したローファーを取り出した。
ふむ。そうそう、コレコレ。
色は黒を指定した。確か7、8色のバリエーションがあったように憶えている。
どれどれ、と試着してみてびっくり。
むぐぅ、と思わず呻き声が漏れてしまうほどに幅がきつい。
箱に「5-1/2 B」と書いてある。長さが5ハーフはいいとして、幅がB。
靴の幅、ウィズ表記というのは、A、B、C…と進むに従って広くなる。日本人の平均はEかEEだったと思う。なのにBウィズ。
これで合ってんの? とアラン氏に訊ねる。
「もちろんです。たった今確かめたばかりです。ムシュウの足はとても薄くて、とても幅が狭いのです」とアラン氏。
僕はそこで生まれて初めて、自分の足の特徴を知ったんだった。
へーえ、そうだったのか。ならば、とあらためて試着するが、如何せん幅がきつい。どうにもこうにもきつい。
いくらなんでもきつ過ぎやしないかコレ、と訴えるが、
「ノンノン。履き始めは窮屈なものです。しかしながら、革というものは伸びるのです。ムシュウに合うサイズはこれだけです」と、首を横に振ったり、肩をすくめたりしている。
アラン氏、なかなかに慇懃無礼なのだ。
まあでもね。プロのシューフィッターがそこまで言うならばね。とそれを購入しました。
で、その結果がコンニチここにあるワケで。
確かに始めのうちは窮屈で痛くて痛くて、泣きながら履いていた。靴擦れも作りまくった。でも、次第次第に足に馴染みました。
おかげで変に型崩れすることなく、ヒビ割れもなく、30年以上履き続けられています。
すごいことだよ。一足の靴をこんなに長年履き続けられるなんてさ。革の質も良いんだろうけど。
アランさん。あの日あの時あなたが言っていたことは、100%正しかったですよ!
どうもありがとう!!
そうそう。アランさんが言っていたことで憶えていることがある。
新しい靴を試着するとき、足を滑り込ませますね、靴の中に。
その時に、履き口と履き入れた足の隙間から、靴の中の空気がプシュッと押し出されて吐き出される感覚があったら、その靴はあなたにフィットしていると考えてもよろしい。んだそうです。
これ、覚えておいて損はないですよ!