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新しいモノを追い求める自分と、古いモノが大好きな自分。矛盾との共存。

コンピュータグラフィックスのエンジニアであったり、研究者(?)という職業柄、常日頃新しい技術や論文を追わねばならない立場なのだけど、実は?大学で研究を始める前からずっと"古いモノ"が好きだった。

高校生の頃から古着屋を巡ったり、大学の頃はよく目黒通りでアンティーク家具巡りをしていた。なぜ古いものが好きなのか、当時あまり深く考えていなかったのだけれど、値段が安かったのはもちろん、それが誰とも被らない一点物であったり、その"出会い"によって自身の価値観が更新されるからなんだろうと思う。それは今も変わらない。最近は東京都の古い銭湯巡りなんかもしていて、なんとなくカルチャー全般が好きなのもあると思う。

2006年くらいの下北沢の古着屋マップ(おそらく雑誌ChokiChokiに掲載していたもの)。当時はGoogle Mapがないので、雑誌の地図を見ながら各所を巡っていた。
四月頃までやっていた東京都銭湯スタンプラリー。全部たまると靴下がもらえる。

なぜこんな話をしだしたかというと、今まであんまり意識してこなかった、「新しいモノを追う自分」と「古いモノが好きな自分」との均衡が保てなくなりつつあったから。最初のきっかけは、今の勤め先のプロダクトデザインチームの方との何気ない会話(雑談)なのだけど、その方がコレクションしているディーターラムスの名作プロダクトを見せてもらって、それが何十年と経過した今でもすごく素敵だったからだった。

古いモノを長く愛すって今の時代っぽいし、ライフスタイルとしてはそれがトレンド、逆に最先端なのでは?くらいに、そのあたりから昔に作られたモノでも今なお素敵なモノってたくさんあるよな~、とふんわり思い始め、同時に日々移り変わる技術の波(最近だと生成AI)に疲弊してきたのも相まって、新しいモノを追わなければならない自分との間に軋轢が生じ始めてきていた。

前段が長くなったけれど、それからフリマサイト(メルカリ)で古いモノを眺めるようになって、ずっと欲しかった名作椅子や、たまたま流れてきた古い真空管ラジオと出会えたりして、家で過ごす時間がグッと豊かになった。新しいモノを追う仕事で得たマネーでこうして古くて素敵なモノに巡り合えているのだから、なんだか矛盾しているが循環してもいる。

マルセルガスコアンというフランス人デザイナーの名作椅子C-Chair。なかなか手に入らないのだけど、ある日メルカリで出品され衝動的に買ったもの。部屋に置くとその場が美術館になる。
昭和28年(1953)年頃に発売されたNationalの真空管ラジオ。当時の大卒の初任給くらいの値段で販売されたようで、型番から一括払いかローン払いかがわかるそう。ちなみにこれはローンで買われたものだった。もし最初の持ち主が初任給でこれを買っていたらエモい話だなと思う。そして、これでどんな音楽を流していたのだろう。

この真空管ラジオに限っては、昔の素敵なオーディオ機器を安く仕入れてBluetooth化したら付加価値付きそう(高く売れそう)、という不純な動機で買ったものだったのだけど、いざ部屋に置いてみたら想像以上に素敵で、それ以後この棚の上が自分の好きなものを愛でる場所になった。もちろんこのスピーカーが発する音は今だと全く高品質ではないのだけど、どこか懐かしさを感じるくらいのこの音質が実は作業BGMにはちょうど良かったりする。

おそらく時代が、lo-fi hip hopが敢えてそういう音を使用しているのも、フィルム風の写真が撮れるデジカメ(富士フィルムのX100V等)が流行っているのも、今それを求められているからで、昔作られたモノや当時の感覚が今の時代と交わる事象がなんだか人間史っぽくていいなと思う。人が創り出すカルチャーで面白いのは、退化した技術すら面白がれるところだと思うし(文化的にそれが今にとっての最新なのかもしれない)、過去の人たちが素晴らしい仕事をして今までにないモノを生み出し続けたから生まれた感覚でもある。

新しいモノを追い求める自分と、古いモノが大好きな自分。こうした矛盾との向き合い方や共存の仕方に関して、自分なりに納得する答えは未だ見つかってはいないのだけど、これからも引き続き、新しいモノを追いかけながら、古いモノへのリスペクトを忘れずに、時を超えて愛してもらえるようなモノづくりを、いい仕事をしていかなくてはな、と思う次第である。そしてこれを機に、古いモノもいいと思える人が少しでも増えたら、なんだかうれしい気がする。

#メルカリで見つけたもの

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