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#ダブルあドラゴン (Google再翻訳が生成した文字列の詩情について)

#ダブルあドラゴン とは、.cho氏 (@ten.chou) による実験 @nnn_fo が突如私の目に留まり、その結果出力されたタグです。

これらのツイート群は、.cho氏によって一時期大量に生成され @nnn_fo に蓄積されていたそうなのですが、2020年2月になるまでF0/F0のまま埋もれていました。他にもこういう実験を隠し持っているのではないかと私は疑っていますが、.cho氏自身ももしかしたら忘れているのかもしれません。

これらのツイート群の生成の過程は、このように解説されています。

なるほど、と思った私が、この手法を使い文章を生成した結果、思いがけずエモーションを見出してしまったためにこの記事が急遽書かれることとなりました。

特に最後の実験では、段階3において突如情報の欠落が発生した結果『非人型ミニアルカン』という、想像力を喚起する文字列が最終的に出力され、私は非常に驚きました。

前提として、まずはGoogle翻訳の左側にタイプライター猿を飼わなくてはならないのですが、日本語IME及び日本語キーボードを使用している我々はたやすく猿になる方法を持っています。かな入力です。

みにかにまらなかいのにみにのちみちみんななすんらのなてらとにんらなとにかいにすなみにくらみまにみくちとちくらしらららのなみちにもらみらからのちみきちいすちすいもちとなきちねのらなとにかいすらほもちまにみんななすんらのなみらなかにのちかちみらもちもちかちにせなとなすなしちのいしいにからもらかちんちとなのなにもにみらみちにくにすちきちみちきなみみてらといにといにとなすなのらからきちしいのにすなみらしいとなるとちすちみにね野良野良醜い水内耳からにな血の名豚ラミ寺持摩に凍砂のらからしいこなみ豚ら波らにも似既知もにすなもにすななかにみにからの異界に野にもちとなる

メモをとらずに書いてしまったため上記の文章を復号するのはもはや困難なのですが、とにかくかな入力を使った上でそれを適宜変換することにより容易に文字列を生成できることがわかりました。

それではさっそく上記の文字列をGoogle翻訳の左側に入れてみましょう。

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Windowsの機能で、日本語入力モードになったことを表す「あ」が非常に邪魔ですが、私が #ダブルあドラゴン を生成する際の象徴のように見えてきました。

さて、支離滅裂である日本語に対して、英語は何やら規則的な文字列が散見されますね。"Everything is crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, clear" など大変興味をそそられる文章です。

それでは段階2へ進みましょう。中央にある⇄を押します。

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ご覧の通り「あ」です。この機能が追加されたときは鬱陶しいなあと思ったものですが、最近はすっかり慣れて案外便利でもあるのでオフにしないままにしていました。しかしまさかこんなところで邪魔になるとは。

それはともかく、想像以上です。先ほど挙げた "Everything is crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, crisp, clear" が「すべてがカリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、クリアです」に進化して帰ってきました。人類の言語野の発達を見ているかのようです。いいえ、人類の言語野の発達を見ているかのようではありません。

段階3。中央にある⇄を押します。

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先ほどはcrispだったカリカリがcrunchyになりました。この僅かなニュアンスの差が翻訳という仕事を困難にしています。

カリカリに気を取られて本質を見失うところでした。私がこの実験的遊びに惹かれたのは「偶発的に発生するエモーション」が好きだからです。この遊びで発生しているのは、本来文章でもなんでもない文字列に対して、機械が勝手に意味を検出し、意味を纏っていそうな文章へと変換する、という作業です。
その結果発生したのが「誰もが世界の真ん中にいます。誰もがその真ん中にいます。そして、誰もがその真ん中にいます。」という美しい文章です。トートロジーのような文字列ですが、どことなくSF小説のタイトル的であり、何らかの物語のラストシーンの情景のようでもあります。
それを踏まえて「波などの凍った砂のようなものです。」もとてもよい。波が凍り、それが砂となったようなものなのか、波というものが凍った砂のようなものであるのか、判然としません。極めて抽象的ながら、こちらも情景想起力の強い、感受性に訴えかける文章となりました。めでたいです。

結論を書くにはまだ早いでしょう。段階を進めていきます。

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あまり変わりませんね。「凍った砂」が「冷凍砂」になりましたが、「凍った砂」のほうが好みです。

何段階か進めてみましょう。

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どうやら収束を迎えたようです。これ以上の変化は望めないでしょう。

というわけで、

"みにかにまらなかいのにみにのちみちみんななすんらのなてらとにんらなとにかいにすなみにくらみまにみくちとちくらしらららのなみちにもらみらからのちみきちいすちすいもちとなきちねのらなとにかいすらほもちまにみんななすんらのなみらなかにのちかちみらもちもちかちにせなとなすなしちのいしいにからもらかちんちとなのなにもにみらみちにくにすちきちみちきなみみてらといにといにとなすなのらからきちしいのにすなみらしいとなるとちすちみにね野良野良醜い水内耳からにな血の名豚ラミ寺持摩に凍砂のらからしいこなみ豚ら波らにも似既知もにすなもにすななかにみにからの異界に野にもちとなる"

という文字列が、

"誰もが世界の真ん中にいます。 誰もが真ん中にいます。 そして、誰もが真ん中にいます。 すべてはカリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、カリカリ、クリア、コナミ豚肉、波および他の冷凍砂のようなものです。"

という文章になりました。うーん、私としてはやはり「凍った砂」の段階が一番よかったですね。どうやら繰り返せばよいというものではないようです。

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そしてこうなってしまいました。ダメダメです。

ところで、Twitterには @inaniwa3 氏によって運営されている「偶然短歌bot」というアカウントがあります。
"ウィキペディア日本語版(2014年11月の版)で、偶然57577になっている文章を短歌としてつぶやきます。" というアカウントで、脈絡なくただ文字数というパラメータだけを使って抽出した文字列が、思いがけず詩情を纏うことがあり、話題になりました。

私は偶発性が好きで、詩情が好きです。#ダブルあドラゴン にも何処か似たような趣を感じ、ここにまとめることにしました。
とはいえ、私がこういったいわば機械生成文章に「詩情」を感じるのは、赤瀬川原平氏のいう「超芸術」的な感性の影響下にあるからかもしれません。「超芸術」とは、作者が芸術として作り出したわけではない物体に、鑑賞者が芸術性を見出したもの(ざっくり言えば)です。
今回の場合、最初の文字列の作者は私です。中間~最終となる文章を出力したのはGoogle翻訳というサービスです。最初のイマジナリタイプライター猿も、Google翻訳も、詩にしようとして文字列を出力したわけではありません。そして、出力された文章は別に詩ではありません。私がそこに詩情を見出してしまいがちなのは私の感性の仕業であり、私の業でしょう。

そういった思索的な面とは別に、私は作詞を稼業の一つとしている身でもあり、歌詞のとっかかり、あるいはフレーズの一部のヒントとして、こういった詩情ある文字列を無限に生成できる方法を知れたのは大変収穫です。
今後私の楽曲の歌詞が今までに輪をかけて抽象的になっていた場合、お察しください。

ちなみに、私の曲はYouTubeや、Spotifyをはじめとする各種サブスクリプションサービスで聴けます。

こちらは歌詞がある楽曲の例です。

その他の曲はこちらなどから聴けます。歌詞がない曲が多いです。

よっしゃ、流れるように宣伝につなぐことができたぞ。

さて最後に、今更ですが、同様の試みは恐らく先人がいるかと思いますし、この記事を読んだあなたはもう同様の試みをすることができます。
よい文章が出力されたら、#ダブルあドラゴン またはあなたのご存知の類似タグでツイートすると、世の中のカオスの比率と多様性が少しだけ増えます。私は世の中のカオスの比率や多様性が増えるのが好きなので、どうか何卒よろしくお願いいたします。

改めて、この実験の着想は @ten_chou 氏に帰属します。
ちなみに、最初は「ダブルドラゴン」(これも勝手に生成された文字列)だったらしいのですが、タグの検索性が悪いことを指摘したところ、氏は「あ」を挿入してヨシとされました。どうしてそんな発想ができるんですか?

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