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babel.bib@gmail.com

 20年近くずっと使っているメールアドレスのbabel.bibはBabels Bibiliothekを省略したものだ。既視感や予知夢のような曖昧模糊としたものを毛嫌いする人もいるが、かつて私はある不思議な夢を見た。その図書館はかつて建築家磯崎新が大分に建てた図書館のエントランスによく似ていた。見上げると天窓があって、梯子を登って本をとるような高い棚が円形に並んでいて、棚が囲む中央の丸い床の縁に沿ってソファが置いてあった。

 天窓を見上げると眩しくて、周りはいっそ暗く見えた。図書館の中には人がいるが、薄暗くてその人たちの形姿がはっきりしなくて、本当に生きているのかどうかわからないような、まるで影が彷徨っているようだった。中央の円形の広場に行くためには僅かな段数しかない階段を昇らなくてはいけなかった。階段を昇ると円形の広間で本を手に忙しく働く人が見えてきた。随分近くにその人が見えてきた。丈の長い黒いコートにはフードが付いていて、コートから薄い菫色の丈の長いスカートのような服が見えた。フードを被っていて顔がよく見えない。でも、夢の中で私はその人に話しかけたかった。何故か。理由はいまだにわからない。

 息を大きく吸って、話しかけようとしたその時、図書館の円形の広間にどこからか声が響いた。

「バベルの図書館。お前はそこで働く。」

 件の話しかけようとした人物が私の方へ振り向いた。顔が見えた。これが私なのだろうか?似ても似つかない。でもこれは私なのだと夢の中で思いながら目が覚めた。それから10年以上の時が流れて、メールアドレスを作る時にウェブで自分のアドレスを持つならそこはきっとバベルの図書館なんだって思った。Googleのどこかにまずは私の住所を持たせてもらった。利用者が増えれば、サーバーを増設していかなきゃいけないのに、なんで無料でアドレスが作れるのだろうと随分不思議に思ったものだが、時代の移り変わりとともにネットの色んなサービスが無料になっていった。このnoteだってそうだろう。

 もしここがNYCのような町だったら?

 やっぱり私の場所はバベルの図書館だろう。建物の入り口は知っている人だけが知っていればいいだろうと思う。