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猫と義兄──義兄編

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5匹の元野良猫と高次脳機能障害の義兄との日々の断片。義兄の話。
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猫と義兄

 5匹の元野良猫と下町に暮らしている。 いま、そのうちの1匹は目には見えない。  脳障害の…

Etsuko Rosal
8か月前
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10. ショルダーストラップ

 アニはいつもリュックサックのショルダーストラップが捩れ、肩からずり落ちた状態で背負って…

Etsuko Rosal
5か月前
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9. マラドーナ

 アニは考えを言葉にするまでに時間を要する。それは数週間から数ヶ月に及ぶ場合もあり、アニ…

Etsuko Rosal
5か月前
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8. 冬至

 私は義父母と言葉を交わしたことがない。  義母は20年近く前に他界しており、義父について…

Etsuko Rosal
6か月前
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7. カレーライス

 アニは数ヶ月という短い期間だが、路上生活を送っていたことがある。  春の終わり、保釈さ…

Etsuko Rosal
6か月前
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6. ぜいたくてちょう

 ──お兄さんは普通じゃないと思います。  警察署での聴取の終わりに差し出された一冊の手…

Etsuko Rosal
7か月前
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5. 孤独を感じるか

──ずっと独りで、寂しくありませんでしたか。 ──いずれ結婚をしたい、という思いはありませんか。  第三者からの客観的かつ一般的な問いかけは、家族の力では開けないアニの脳内を見せてくれる。この質問は、アニの起こした事件に関心を持った新聞記者が取材に訪れた際に訊ねたものだ。この二つの問いに、アニは「いいえ」と即答していた。  中学3年生の時に脳梗塞を起こして以来、人知れず高次脳機能障害と共に生きてきたアニは、弟である夫の記憶では、高校、大学、社会人へと成長していくなかで次第

4. 梅雨のはしり

 義母が遺した手帳に記された、当時のアニの主治医と思われる医師の苗字を手がかりに、その人…

Etsuko Rosal
8か月前
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3. 偏食家

 アニは極度の偏食家だった。  子どもの頃からほとんどの野菜を口にしなかったという。魚も…

Etsuko Rosal
8か月前
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2. 生まれつき

 義実家を訪れたのは、アニの逮捕から一週間ほど経ってのことだった。  逮捕を知るきっかけ…

Etsuko Rosal
8か月前
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1. 小糠雨

 アニ(義兄)との初めての対面は、留置所のアクリル板越しだった。逮捕から四日後のことであ…

Etsuko Rosal
8か月前
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