紀尾井町家話

歌舞伎俳優が有料配信をするのも珍しくなくなった。
尾上右近くん、中村壱太郎君の“ART歌舞伎”松本幸四郎さんの“図夢歌舞伎”と歌舞伎家話。

 私がはまっているのは尾上松緑さんの紀尾井町家話。松緑さんの本名はあらしさん。今は紀尾井町に住んでいないが親しみを込めてきおいちょと呼ばれるのはお好きだと言う話を聞いてから愛を込めてきおいちょと心の中で呼んでいる。そんな愛すべき酒豪のきおいちょと乾杯をして始まる夜9時からの紀尾井町家話は夜に出かける事もままならぬ私にはお酒を飲みながらとても楽しい憩いのひとときとなっている。
 回を重ねる毎ににわかファンの私はきおいちょの素顔も垣間見られる様な感覚が嬉しい。お話の進め方も上手でゲストの事も良く知って抜群のタイミングで話を振っていく。シークレットな話やちょっとした可愛い毒舌でゲストを慌てさせるのも視聴者としては楽しい。きおいちょは歌舞伎に対する考え方や立場をしっかり表明するが、新作歌舞伎や他流試合も温かい眼で若手花形を見守ってる事が伺える。約90分の紀尾井町飲み会はあっという間に時が過ぎて楽しい。三回目の昨夜はまるる(中村莟玉さん)と梅枝君がトークのお相手だったが前回の第二回の家話の時は三代目猿之助(現猿翁)さんがきおいちょ二世松緑との確執を語りながら、きおいちょ自身の襲名の時に猿翁さんが過去はもう終わらせようと出演してくれた事を感謝した話はもはや芸談。猿翁さんの懐の深さを感じさせるエピソードだ。二世松緑は猿翁さんの外連味溢れる復活狂言やスーパー歌舞伎を喜熨斗サーカスと言いとても嫌われてたという。若き辰之助君が松緑を襲名する時は全て恩讐の彼方にきおいちょの襲名を寿ぐ猿翁さんらしい心温まるエピソード。
 そして昨夜はまるるがNARUTOのサクラちゃんを演じた事に話が及んで、新作歌舞伎で新しい何かをつかんで古典に帰って来てくれてきおいちょ自身も刺激を受けると嬉しいを言ってくれる。新作の話から最後に四代目猿之助さんの事に触れてスーパー歌舞伎と古典の間を計算しながら行ったり来たりしてる。「僕は猿之助さんを尊敬している」ときっぱり言い切ってくれた。古典のきおいちょにそう言われると込み上げる熱い物を押さえるのに苦労した。目頭が熱くなったのはきっとお酒のせいだ。
菊畑の話、播磨屋系と音羽屋系の衣裳の違いから来る型の違い。舞台での見え方や衣裳の色でお役の心持ちも変わるなど毎回楽しみな紀尾井町家話。
「相手役が一番下良い席で表情を観られるんだぜ。海老蔵さんのあんな顔を間近で観られるのはお客様には悪いけど相手役を勤めてこそ」みたいなお話には膝を打つ程の納得。
 強面だが甘えん坊でやんちゃで面倒見の良いきおいちょが好きなゲストを呼んでZoom飲み会風に展開してくれる紀尾井町家話。ずっと続けてくれるらしいからあまり音羽屋を観ない私にとってはわくわくとキラキラなトークで週末の楽しみが増えた。
興味のある方は是非 e+からチケットを購入して土曜日の夜のきおいちょ飲み会に参加して欲しい。

 最後に猿之助さんときおいちょの思い出を少し。
私が観た二人の共演は2015年二月松竹座の鴈治郎と壱太郎君の連獅子の間狂言の宗論。
宗論がこんなに面白くて生き生きとした舞踊でもあると感じたのは初めて。何なら1時間位宗論してくれも良いんですよと言いたくなるほど楽しい宗論だった。

松竹座ではきおいちょは「京人形」で左甚五郎も踊っている。これまた惚れ惚れする男前な左甚五郎。立ち回りも格好よい。着物の裾をからげて花道を走るきおいちょの足はぞくぞくするほど色っぽい。
 
2017年6月の「一本刀土俵入り」できおいちょと猿之助さんの夫婦役も感動的な物だった。猿之助さんは2014年以来久しぶりのお蔦、いかさま博打をしてヤクザに追いかけられながら帰って来る夫辰三郎がきおいちょ。きおいちょは僅かな出番なのにお蔦への愛情を細やかに表現する。お蔦は何年も信じて待ち続けた夫への夫婦役愛が感じられる。どうしようもないけど待ち続けたくなるいい男だ。二人の愛の物語は数分間だが客席の胸を打つ愛情物語だ。きおいちょと猿之助さんの共演は今後は難しいかも知れないがまた愛情深い夫婦を演じて欲しい。

2009年の亀治郎時代に鬼揃紅葉狩りでも共演してる2人だが残念ながらこちらは映像でしか観ていない。またいつか今日する事があればと願わずにいられない。
 
 次の紀尾井町家話は7月11日の21:00から。
そして図夢歌舞伎が同じ11日の11時から。家に居てても観劇で忙しい。
8月は歌舞伎座で興行が再開されるが東京の感染者数を考えると東京遠征は難しい。当分無料や有料の配信で楽しませて貰おう。

よっ、きおいちょ🎵

#紀尾井町家話 #尾上松緑 #市川猿之助

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