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アラ古希ジイさんの人生、みんな夢の中 フィリピン編⑧ 月光仮面と快傑ハリマオ

フィリピンのような熱帯の開発途上国の工事現場は、最初開いた口が塞がらない感があった。いわゆる3K(キツイ、キタナイ、キケン)というが、我思うに、フィリピンではonly one D (dirty)につきるような気がする。もちろん、dangerousで、desperateな要素もあるけど、彼らにしてみればすこぶる無頓着で、当然dirtyとも思っている訳ではない。
 
日本では、現場が散らかっていたりすること自体が、危険につながるという意識があるが、彼の国では全くそういう意識がない。公共心は文化の成熟度に大きく依存していて、日本も欧米に比べ良いとは言い難い。しかし、途上国ではなおさらで、公共の場をきれいに保とうとする感覚が非常に薄い。当然、マニラでのビル工事でもやたらクズ材が散乱している。
 
くわえタバコの作業者も当たり前の風景で、私もしばらくすると全く気にならなくなった。大体昔の日本と同じで、男の喫煙者がやたら多い。
 
昼になると屋内なら大抵どこでも、屋外なら簡易式の幌で日陰を作って、その場で車座になり、ランチタイムが始まる。弁当といっても、大体スーパーのビニル小袋のようなものにご飯とおかずをそれぞれ入れてきて、カマーヤン(右手だけ、詳細は別途話す)で食べている。時間は決まっているようで決まっておらず、11時くらいから11時半に始まる感じだ(これはいい、始業も7時くらいといやに早いからだ)。そして、食べ終わると、板や段ボール紙をその辺に敷いて昼寝が始まる(スペイン語でシエスタは昼休憩)。近くで機械が動いていようが構わない。そんな状態でも事故はない。自分の身は、自分で守るという意識がしっかりしているためであろう。
 
ここまでは許す!
 
問題は、体に入れる方だけでなく、出す方も現場でやってしまうことである。といっても、さすがに、大まではしない。小だけだが、ちょっと隅にいくとプーンと臭う。これにはさすがにオーナーも事ある毎に文句を言っていたが、いっこうに改善されなかった。
 
大体この国の人は(男だけだけど)、立ち小便をどこでもしてしまう。昔の日本も似ていたが、ちょっと理解に苦しむこともよくある。局部さえ人に見えなければいいという感じ。大型バスやトラックの場合、ドライバーは大概大きなタイヤの隙間に放尿してしまう。一度見たのは、マニラと現場サイトの中間の道路で、バスのドライバーがやおらバスを止め、バスの前に行ってバスの方を向いて用を足していた。タイヤのすきまでは乗客が窓から顔を出して見えてしまうと思ったのであろう。当然後ろには車がつらなり、対向車は彼の放尿する後ろ姿を否応なく見ていくのであるが、局部さえ隠れてしまえばOKと思うようである。
 
話を建設現場に戻すが、一度、据え付けて間もない配電盤(鉄板の箱)を開けた途端、プーンと臭ったことがあった。仕事場の大事な装置に、立小便かよ!さすがにこの時は、作業員の雇い主に怒って文句を言った。
 
工事の精度も、床や天井と、壁の接合面に隙間ができて、ゴキブリやネズミの通路になっていたりして、お世辞にもいい出来とは言えないが、遠目にはあんなに汚かったのがそれなりに仕上がると、ここは日本じゃないんだから「まーいいか」と思ってしまうこともあった。
 
亡くなった漫画家の石ノ森章太郎(宮城県石巻出身)の初期の作品に「快傑ハリマオ」というのがある(他にサイボーグ009とか仮面ライダー等の作者)。舞台はフィリピンだかマレーシアだか忘れたが、とにかく日本でない南海だった(別名マレーの虎)。正義の味方が海賊たちをやっつける物語で、私はマンガそのものよりもテレビで放映されていたのを覚えている(昭和35年)。三橋美智也が歌った主題歌は今でも歌える。
 
快傑ハリマオは知らなくても、月光仮面(テレビ-昭和33年)は知っているかな? ハリマオは頭にターバンのようなものを被り(薄手のマフラーを頭に巻いて端を左側に垂らす)、サングラスをかけていた。月光仮面は、サングラス以外は完全な白装束である。白い頭巾(頭と顔)、白い長袖とタイツ(!)、それに白いマント(今思うとチンドン屋に近いけれど、当時の子供たちに大人気で、憧れだった)。作者は川内康範、森進一の「おふくろさん」を作詞した人。テレビと映画の月光仮面(前者は大瀬康一)、ハリマオ、それに七色仮面などは、名前を忘れたが、演じた俳優の顔もはっきり覚えているし、もちろん主題歌は歌える。
 
建設現場では、作業員が朝の7時から日が暮れ終わるまで働いていたが、屋外で働く彼らの多くはヘルメットなんぞ被らず、頭と顔をタオルで覆って、サングラスをかけていた(もちろん直射日光を避けるためだが)。ハリマオの舞台に近い、かの地で、私はよくハリマオや月光仮面を思い出さずにはいられなかった。頑張れ、工事現場サイトのハリマオ、月光仮面! と心でつぶやきながら。
 
今回の一首
観覧車回れよ回れ 想ひ出は 君には一日(ひとひ) 我には一生(ひとよ) 栗木京子

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