見出し画像

アラ古希ジイさんの人生、みんな夢の中 フィリピン編⑦ クリスマスツリー

さて今回はクリスマスにちなんだ話ですが、ある意味、前回に続くフィリピンの動物シリーズ第2弾。でも、クリスマスツリーのお話をする前提として、まず通信事情から話さなくていけない。

開発途上国の通信事情は、携帯電話の普及で劇的に向上した。中国、東南・南アジア・中近東・アフリカ・中南米、例外ない。携帯電話は、基地局だけを、光ファイバーを敷設することにより、どんどん伸ばしていけばいいのである。

フィリピンでは、丁度駐在時が端境期、移行期だった。有線電話は、首都マニラはともかく、田舎では申し込みはしたものの、何年先に通じるのか、全く見当もつかず、埒が明かない。現場サイトでは、仕方ないので、寮の屋上に直径3mくらいのパラボラアンテナを設置し、衛星電話(インテルサット)を緊急時用として使用。街の中心部に、固定電話がある民家と契約して、都度出掛けて使用させてもらっていた。

1人1台PC(パソコン)も日本国内は当たり前になっていたが、海外赴任者にはまだ規定されておらず、フィリピンの前に8か月居たアメリカでも、海外手当を貯めて、自費で東芝のノートパソコンを通販(まだamazonはなし)で購入して使用、フィリピンにもこれを持参して使用していた。(アメリカでさえ、携帯電話は普及しておらず、格安電話会社が少しずつ使えるようになっていた程度で、インターネットは使えたが、「検索」をしても必要な情報が得られ難い状況だった。)マニラの寮では、インターネットも使えたが、現場サイトでは、メールを作成しておいて、たまに、町中まで行って、固定電話を使わせてもらって、ダイヤルアップでメールの送受信とインターネット経由でのダウンロードをまとめてやっていた。

駐在も残り半年になる頃、マニラで携帯電話が売られ出した。まだ、かなり大きい電話機(古いトランシーバーの大きさで、5㎝×5㎝×15㎝)という感じ。メーカも、エリクソン(スウェーデン)やノキア(フィンランド)中心だった。電話機を購入して、プリペイドカードで通話が出来た。駐在も終わりに近づいた11月には、サイト寮の屋上に上がると、かろうじて通話できるようになった。いやーっ、全く隔世の感あり、である。そして、その時がやって来た。ある夜、寮の屋上に上がり、何とか通話をしていると、ナ、ナ、ナント!、目の前を光るものが飛んでいるではないか?!それは、まぎれもないホタルだった。ここに居るのか?ホタルが?!それも、この季節に?数は少ないが、2~3匹見えた。感動だった。年末は、前年も経験しているが、その頃は忙しくて、とてもホタルを見つけられる余裕などなかったのだ。

乾季になり、たまに残業しないで、17時に仕事を終え(始業は8時)、そのまま町の、電話の借用契約をしている家まで、パソコンを背負ってメールを出しに、自転車で片道7km、30分の運動を兼ねて、ひとり自転車を漕ぐ(勿論、ドライバーに言えば会社の車で往復できたが、ほぼ私用メールだし、社有車はあまり使わなかった)。片道で汗びっしょりだ。フィリピンは日本より日が長い、といっても12月に近い時期になると、18時過ぎには日が沈む。寮への帰りは真っ暗になることもある。懐中電灯をかざしながらの道中だ。

そんなことして、危険ではないのかと思われるだろうが、マニラなら場所によってはというところも、田舎では全く大丈夫。明るいうちは私が自転車で通ると、沿道は、「笑顔の行列」である。みんな、「なんだあの外人は?好き好んで、この暑いのに自転車なんかに乗って!」と好奇心の固まりのような目で、通り過ぎるまで私の目をまっすぐ見詰め続け、やがて微笑んでくる。「Hey!」とか手を振ってくる人もいる。子供たちは、なおさら可愛い。こういう環境ではホント、ストレスを感じないで済む。

我々が住んでいる寮の近くは、Highway(とここの人が呼んでいる片側1車線の国道)から田舎道に入り、さらに3kmぐらい行かなければならない。道の片側はすぐ海。もう一方はちょっとした山になっている。ここを夕方通るようになって、薮にかなりのホタルがいることに気づいた。1回通ると5~10匹くらい、点滅しながら飛んでいるホタルを見ることができた。そんな中、たった一回だけだけど、ホタルが30匹ぐらい、群れで飛びまわっているのを見た。一体、なんという光景だ!それは、叫びたいくらいの感動だった。ホタルの群れ飛ぶ木は、まさしく、天然のクリスマスツリーだった。12月頃がフィリピンでは蛍の旬であるらしい。半農半漁の村で、発電所の建設工事に臨時工として働いていた男女も居たろうが、ホントにつつましやかな生活をしていて、夜も薄暗いランプが灯るくらいなので、ホタルの光がよく見える。クリスマス好きの、敬虔なクリスチャンである彼らには、派手さはないが、やや涼しくなった聖夜には、丁度良いイルミネーションである。

今だったら、間違いなく、写真を撮りまくるところだけれど、ホタルも何もかも、記憶以外に残ってるところがない。それでも、それで十分かも知れない。記憶の中では、薄緑色の微かな光が、ちゃんと残っている。

発電所付近の村落も、その後発電所が増設され、町もGoogle Mapでは、コンビニやレストラン・リゾートホテル等が増え、まだホタルが居るのか全く分からないが、時代の波を遮ることは無理かもしれない。

Merry Christmas!

今回の一首  
思へば 沢の蛍も わが身より あくがれいづる魂かとぞみる  和泉式部
         
 
 

サイトはマニラの北250㎞の西海岸
サイト


 
 
 
 
 
 
 
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?