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若い女に拾ってもらう

男は、神田で買った貴重な本が数冊入った手提げ袋を落とした。ものすごいラッシュで人にもみくちゃにされて新宿で降りた。男は降りることに必死だった。ホームに足がついてフッと思い出した。手提げ袋が人の波に飲み込まれて手から離れていることに。人の波をやり過ごす。ドアのすぐ横に男の手提げ袋を持った若い女が立っていた。男は「すみません」といいながら手を差し出した。女はその手を見て気づき、そのまま腕、肩を経由して男の顔を見た。その瞬間、女の顔に失望の色がハッキリと見てとれた。「ありがとうございます」と男は静かに言って受け取った。
男は、本が無事でよかったと思いつつ、なんだか複雑な気持ちになった。

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