ちょっと、すみません

満員電車は、東京だろうか。

言わないとわからないよと、人に言う。
言ってもわかってもらえなかったと、人に言う。

普通そのくらいわかるよねと、勝手に押し付けて。
もっと早く言ってくれればと、勝手なことを言う。

わからなかったら聞いてねと、言われて。
なんでもかんでも人に聞かないでと、言われる。

満員電車は、会社の縮図。
普通、普通、普通、と不機嫌な顔で自分のマナー押し付けて。
深刻な犯罪には関わろうとしない。
出口へ向かうには、背を向けている人の鞄を押し退けて。

自分がそこにいることも、他人がそこにいることも。
あんまりないことにする。

わたしとあなたがいれば。
それだけで利害の不一致。
互いの害を舐め合いながら、なんとなく曖昧を共有する。
ここに害がありますと、ちょっと言う。
ここに害がありますと、ちょっと聞く。

100%、言ったらわかってもらえるなんて思っていない。
でも100%、言わなければわからないと知っている。

すみません。

一言そう口にしたら、案外東京の人はすっと体を寄せてくれる。
東京の人は冷たいのだろうか。
東京の人はもしかしたら、ちょっとすみませんと言われるのを待っている。

東京で、助けてと言えない人を見ている。
もしかしたらもう、何度も聞こえないふりをされていたのかもしれない。
ちょっとすみませんと、気軽に言えるようになったら。
きっと東京はギスギスする。

わたしとあなたがそこにいて。
完璧な世界は存在しない。

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