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原了郭の黒七味、リカバリの土曜日

こんにちは。Natsuです。友人からお中元で原了郭の薬味セットをいただきました。

黒七味、粉山椒、一味のセットです。天然木の容器もついて見た目からでもホンモノな感じが伝わってきます。

京都祇園のお店。

送ってくれた友人が学生のころ、アルバイトしていた美味しいお蕎麦屋さんで各テーブルに置いてたのが、ここの黒七味だったそうです。

わたしは普段、薬味の類は拘らないどころか、刺激的な味のものが苦手で、自宅にはそれらしいものは黒胡椒くらいしか置いていませんでした。

この友人はとても信頼できる人物です。我々は、歴史あるもの・美味しいもの・美しいものを愛する同志です。そんな友人が勧めるこの薬味セットを味わうのを、わたしはとても楽しみにしておりました。

届いて早速、お昼のそうめんで試してみることにしました。麺はいつもどおり揖保乃糸、めんつゆもいつもどおりヤマキのめんつゆです。

水道水で薄めためんつゆに、白木が美しい薬味容器からトントンと黒七味を振りました。辛すぎたら困るので、控えめに。

このとき、一瞬、なんだかすごく、いい香りがしました。

嗅ぎ慣れた黒胡椒のそれとは違っていて、粘膜にくるような刺激の波でもなくて、全く言葉にできないんですが、何らかの特徴的な香りでありました。しかしそれは長く残るものではなく、ふわっと広がってすぐにわからなくなりました。

いざ実食。期待に胸を踊らせ、黒七味が浮いためんつゆにそうめんをくぐらせて食べてみました。


なにこれ


もう完全にこれは、今までわたしが食べていたそうめんとめんつゆではありません。間違いなく別の料理です。なのに、いったい何がどう違うのか、それがぱっとわからないのです。そう、これといった「味」がわからない。表現できない。うまい、とにかくうまいのは確か、思考が追いつかず、謎は謎のまま、あっという間にそうめんを平らげてしまいました。

てっきり、黒七味を加えると、単純に辛くなるのだと思っていました。しかしそうではありませんでした。難しい味、というわけでもないんです。間違いなく、明瞭に美味しいのです。


この奥行きと広がり...

わたしは宇宙の始まりをめんつゆにかけて食べたのではないか?


食べ終わってしばらく呆けていると、顔から汗が出てきました。どうやら、辛味もちゃんとあったようです。そうか、辛かったのか、とこの時はじめてわかりました。

簡単にいうと、「何味かわからないけどとにかくとても美味しかった」です。

この感覚は、大変にレアです。わたしは見えているものや聞こえた音や食べたもの、考えたこと、肌触り、なんでも自分で言語化しないと気がすまない性分なもので、自分の感覚について、言葉にできない状態になることがほぼありません。ぴったり的確な言葉にできなくてモヤモヤすることは多々あるものの、感じている感覚のかたち自体は認識していることが多いです。

今回の黒七味の食経験は、どんな味なのか、それをかたちとして認識できないという不思議体験となりました。

ドラッグを試したことがないので確かではありませんが、ドラッグって恐らくこういうものなのではないでしょうか。他人には説明できない、自分でも思い出せない、でも感覚の中で存在感をもつ刹那的な気持ちよさ。

黒七味とセットで送ってもらった一味と粉山椒は、いったいどんな味がするのでしょうか。

すっかりハマってしまいそうです。

美味しいものはいつ食べても美味しいですが、疲れているときに美味しくないものを食べると腹は満たされても心が死にます。

近頃は仕事でバタバタして、仕事以外でも考えるべきことがあって、落ち着きない日々に疲労がたまっておりました。そんな時に適当なものを食べると、余計に気落ちします。もう何も食べないで寝たほうがマシ、と思うことすらあります。

とびっきり美味しくなくてもいいけど、せつない気持ちにならない程度に美味しいものを食べていたい。

生活水準上げすぎると経済的に苦しくなるのはわかっているけど、自分の「美味しいものを食べて生きていたい」という意志を尊重したいものです。

院生の頃、わたしは研究に使う動物の飼育管理を一人でやっていました。餌を培養し、決まった時間に餌をやり、決まった時間に飼育容器を交換し、大量のガラス器具を洗浄するのは、なかなかに手間のかかる作業です。ご存知の方はご存知でしょうが、実験に使う器具の洗浄作業は、ヒトが食事に使う食器の「洗い物」とは異なり、場合によってはしっかりめの苦行です。

愛する実験動物相手でも、週に数回決まった時間に決まった餌をやるのですらこんなに面倒くさいのに、たいした業績も残さないくせに1日に数回空腹を訴えてパフォーマンスを落とす自分に食事を与える作業の、なんと面倒でコスパが悪いことか。

実際、当時の自分のツイートを見返すと、

自分に1日数回餌やりするのが一番面倒くさい

と呟いています。というか、ほんの数ヶ月前まではこの感覚が常でしたので、ことさらに自分の変化が嬉しいわけですね。

「誰ゆずりか知らない無鉄砲でこの先の人生も損ばかりするのでは」との懸念は常にありますが、少し前よりはマシになっている、と思います。

お昼を食べたら眠くなってきたので、贅沢に昼寝をすることとします。

なんの生産性もない、自分を健やかに保つための行いに時間やお金をかけられるのって、ひどく幸せですね。就職してよかったなあ。

いま、ラボで萎れている院生さんたちがそれぞれの良さを活かせる次の場所を見つけられますように!

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