チクワは歩く 第2話「さよなら練り物街」
第2話「さよなら練り物街」
「なあ本当に街を出るのか?」
「本当さ」
「止めやしないけど理由だけは教えてくれよ」
僕はちくわぶの問いに、少しだけ間が空いてしまう。それは昨日の僕が期待した止めてくれる友達が、彼を最後にいないことが決まってしまったからかもしれない。
「おい。散歩気分で街を出るのか?」
「いや。散歩気分なんかじゃないよ。」
「まあ別にお前が街に戻ってきても誰も責めやしないけどな。」
『祝ってくれる奴もいないだろ』という言葉を飲み込んで、僕は他の奴らにも言ったフォーマット化された理由をボソリと呟く。
「変われるか分からないけど変わりたいんだ。街も君も嫌いになったわけじゃなくてね。」
ちくわぶは興味なさげに鼻息で返事をした。
「もう街に戻ることもないから、君に会うのもこれで最後だ。これまでありがとう」
僕は自分に言い聞かせるように、初めて理由ではなく決意を彼に伝えた。
彼はただ黙って僕を見ていた。
僕は沈黙に耐えられず、街と彼らへの別れを切り出した。
「それじゃもう行くよ。この街で会うべき奴は君で最後だからね。」
「俺を最後にしたのは意味はあるのか?」
「わからないよ。多分君が街の外れにいたからさ。」
「まったく。もう会うこともないんだから、この街で一番大切だったからとでも言えばいいだろ。」
彼はいつもの馬鹿話の時に浮かべるのとは違う笑みでそう言った。
僕はそれが少し嬉しかった。街にあと1日くらいいてもいいかなと思った。
「まあ達者でな。たまにあいつらとお前との思い出話をしてやるよ。」
しかし彼のせいで、街にいるわけにはいかなくなってしまった。
「無理にはしなくていいよ。それじゃあね。」
その僕の言葉を最後に、僕は街の外に彼は街へと歩き出した。旅立ちを彩る普段はしない別れの握手や抱擁もせず、またいつか会えるかのように。
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