坂本龍一がレストランのために遺したプレイリスト
静かに水が揺らぐような、坂本龍一さんのピアノが大好きでした。その坂本さんは、同じく水をイメージした数々の楽曲を残したドビュッシーに深く影響を受けていたことを知り、驚いています。
ドビュッシーは1862年フランスのパリ生れ。27歳の時に、パリ万国博覧会でジャワ音楽であるガムランを耳にして、「世界には西洋音楽の規則に則らない音楽があるんだ」と衝撃を覚えます。
その後15年の歳月をかけて、東洋の音楽や風景を独自の表現で表すことに成功した「塔」という楽曲をドビュッシーは発表しました。
アジア音楽に影響を受けたフランス人のドビュッシーに、日本人の坂本さんが影響を受ける。音楽はぐるぐると世界を駆け巡りながら、どこか高みに向かっているような気がします。
坂本さんの生前のエピソードを、The New York Times が詳しく報じていました。1990年から坂本さんが活動の拠点をニューヨークに移していたことも関係しているのかもしれません。
(*) suffused
〔液体・色・光などで~を〕満たす、覆う、一杯にする
マンハッタンにあった精進料理のレストラン「Kajitsu(カジツ/嘉日)」は、坂本さんの自宅からも近く、お気に入りのお店でした。でも、店内でかかっているBGMがあまりにもひどく、坂本さんにとって耐えられないものだったそうです。
公共のスペースで流れる音楽に問題があるのはよくあることですが、普段の坂本さんであればその場をただ立ち去るのみでした。でも、このレストランは坂本さんが本当に好きなお店で、シェフの大堂浩樹さんも尊敬していました。
坂本さんは大堂さんにメールを送り、「自分が気持ちよく食事ができるように、無給で音楽を選ぶ仕事を引き受けてもいい」と申し出ました。
坂本さんはレストランで食事をしながら、あらためて店内に流れている音楽を注意深く聴きました。そして、レストランの壁の色、家具の質感、部屋のセッティングなどとても明るい雰囲気なのに対し、音楽があまりにも暗いことがわかりました。
「Kajitsu(カジツ/嘉日)」のためのプレイリストを完成させるまでに、坂本さんは、少なくとも5回は作り直したと言います。
46曲、約3時間15分に及ぶRyuichi Sakamoto Restaurant Playlistは、Spotifyで公開されています。坂本さんの遺したプレイリストに耳を傾けながら、故人が愛した音楽の世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※Ryuichi Sakamoto Restaurant Playlist
(試聴には登録(無料)が必要です。一部試聴できない楽曲があります)
(*) 参照リンク
※Ryuichi Sakamoto: Japanese electronic music maestro dies (BBC、2023年4月2日)
※Ryuichi Sakamoto, Oscar-Winning Composer, Dies at 71 (The New York Times、2023年4月2日)
※Ryuichi Sakamoto, Annoyed by Restaurant Music (The New York Times、2018年7月23日)
(*) 参考リンク
※ガン闘病中の坂本龍一さん、外苑再開発見直し要望書を東京都に送付「何もしなかったら禍根を残す」(東京新聞、2023年3月16日)
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