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多大な期待を外さなかったネットフリックス『浅草キッド』

 なんだか、毎月一本投稿すると言っておきながら長らく書いておらず、前に書いた記事もネットフリックスの『ゴジラSP』のお話だったので、今回も作品の感想を書こうと思う。今回はラジオを聞いてもテレビを見ても、都内のJR駅のホームドアまでも猛プッシュの『浅草キッド』についてだ。

初めに、俺をオードリー若林さんが引き込んだ

 まず、私が浅草キッドを見るに至った大きな理由が、ラジオやテレビでの、オードリー若林さんの絶賛の言葉であった。新幹線で移動中に見て、ボロボロ泣いてしまったという話、自身もショーパブの合間に必要とされていない状態で漫才をしていたという共通項を話しており、興味をそそられた。
時を同じくして、オードリーのオールナイトニッポン以外のオールナイトニッポンでも、浅草キッドについて語れているのを聞いた。Creepy nutsのオールナイトニッポン0では、自身らが出演されていることを語っていた。佐久間Pのオールナイトニッポン0ではネットフリックスから送付されたプロモーション用の資材について語っている。曰く、舞台となる浅草フランス座の模型(ペーパークラフト?)の形をしており、中を開くと実際のステージを模した舞台があり、そこで、PVが流れているというものらしい。佐久間Pは感想として、「ビートたけし若かりし頃のストーリーであるものの、日本のお笑い業界の物語でしかなく、世界で売り込める題材ではないのに映画の予算はもちろん、局に大がかりなプロモーションも打てるのは、ネットフリックスの資本力の高さ故だよね」と言っていた。そのうえで、事前に本編を見て、傑作であることを語っていた。
そんな副読本を得ながら、私は浅草キッドを見ることになった。

感想

 まだまだ配信されたばかりの作品なので、細かい言及は当然避けたいと考えているが、問題なさそうな範囲で感想を書いていく。
 前段で語ったようにラジオなどで絶賛の声を聞いていたため、「ステマ」とまでは思わなくても、「業界の人間だからこその共感」が強い作品なのではないかと少しだけ懸念していた。私も新幹線の移動中に見ていたが、ところどころ泣いてしまった。
 この作品は、ビートたけしと、その師匠である深見千三郎の出会いと別れを、ビートたけしの成り上がりと深見の凋落を明確に対比させることで描いている。そのため、師匠の下を勝手に飛び出して、負い目を感じている成功者のたけしが少しでも恩返しをしようと深見のもとを訪ねるが、深見も師匠の見栄を見せようとするシーンだ。お互いが強く思いあっているからこそ、切なくて、思わず涙が出てしまったのだ。
私は元々深見千三郎役の大泉洋さんのファンであるが、深見の一見ぶっきらぼうな荒らさ、弟子のたけしを愛している慈愛、そして凋落して行く落ちぶれた姿、どれを見ても1級品で、彼の俳優としての深さを感じた。大泉洋さんは以前、山田洋次監督と仕事をして、「渥美清に匹敵する」と言われたと吹聴していた。山田洋次監督もそれを否定することはなかった。この渥美清もフランス座の出身だと言う。なんだか作品の中で点と点が線になったような気がした。
主演の柳楽優弥さんの演技も恐ろしいくらい良かった。監督の劇団ひとり曰く、松村邦洋さんからビートたけしのものまねを伝授してもらい、その後誇張を削ぎ落として自然なたけし像を作り上げたらしい。現在の柳楽優弥さんもビートたけしも知っている自分が、見ている間は「若い北野武君」としか感じられない違和感のなさは、名演と言わざるを得なかった。
もう1つ、地味ではあるが良かったのが、ビートきよし役のナイツ土屋さんだ。私がテレビを見始めた頃には既にきよしさんは一線を退いていたので、「ビートたけし特集」みたいな番組で数回見た程度ではあったが、土屋さんの演技は少し山形訛りがあり、おずおずとたけしとやり取りするという自然な演技をしていた。思えばフランス座は現在、東京演芸の本拠地、浅草東洋館であることを考えるとこれもまた点と点が繋がったように感じた。

最後

とにかく、私はこの作品を多くの人に見て欲しいと思った。既にたくさんの人が見ているはずだが、なんかこの記事にたどり着いて興味を持った人がいたらとても嬉しいと思う。
この作品はタップダンスのシーンが印象的で、音楽の良さもひとつの魅力だ。Netflix内である程度稼げたら、劇場での公開も検討して欲しいと願う。

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