ソーシャルワーカーのための「面接技術」Plus Ultra 8

アセスメントでその後の対応が変わる

 このように、八百屋の「ポジションニング」によって、その後の展開がまったく変わることがわかっただろう。
 ここで、いくつかポイントをお示ししたい。

 まず、一言目に「否定」から入らない、という点である。
 【対面型】では、表明されたニーズに提供できるサービスが合致しないために、「すみません、うちは八百屋なんで…」という返答から始められていた。しかし【寄り添い型(伴走型)】の場合、「牛肉ですか!いいですね。」と、共感から入っていった。
 このように、Noから入らずYesから面談が始まることも大事だろう(この点については、第4章にて再度詳しく述べたい)。

 そして「今夜はお祝い事か何かですか?」と、何気ない会話を通して相手の状況を分析しているのである(これを、ソーシャルワークの展開過程ではアセスメントという。本書では、このアセスメントをとても重要視している)。

 何気ない会話から、妊娠していること、この街に引っ越して間もないこと、頼れる人が近くにいないことなど、エクスプレスト・ニード(表明されたニード)以外のニーズについても着目し、お客さんと横並びの位置で話を伺いながら、「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考えているのである。
 そしてその提案として、肉屋の場所を伝えるだけでなく、薬屋やその他お客さんの役に立ちそうな情報を合わせて提供しているのである。
 
 それによって、八百屋に対する一定の信頼も得られるのである。そして、最終的に野菜も買ってもらえることもあるのである。これは、言い方を変えると、表明されたニーズだけでなく、その背景にある本当のニーズに着目し、自身の提供するサービスが合致するかどうかだけでなく、「その人に何が必要か」「どのような支援が必要か」を考えることで、最終的に「自身の提供するサービス”にも”合致する」ことがあるのである。

 これは、実際の相談支援の場面でもみられることがある。行政など他の相談窓口から「うちでは対応ができない」「やれることがない」と紹介され相談に至った経緯がある事例について、きちんと相手の相談を受け止め、話を聴くことで、実はその紹介元で取り扱っている制度の対象にもなることがわかった、等である。

 さらには、相談支援機関同士の連携・協働の体制ができているか否かでも、その後の支援展開が大きく変わることもある点も強調すべきだろう。先の八百屋の例でも、顔の見える関係ができていることで、必要に応じて「お肉を持ってきてもらう」などの対応を依頼することができるだろう。加えて、ある一定の信頼関係がお客さんと八百屋にできつつあるとすると、その「信頼できる相手」が信頼している相談支援機関に対しては、クライエントはその相手と同様に信頼しやすくなるということもあるだろう。
 ソーシャルワークの支援展開においては、多職種との連携が重要となってくるが、どのようにクライエントにその支援機関や人を紹介するかも、大切になってくるのである。


             、、、つづく

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