マシュマロ回答(難民問題に関する本)

こんにちは!ご質問ありがとうございます。
おかげさまで新しい国でも楽しく過ごしております。

私のツイートがきっかけで難民問題に関心を持ってくださったとのこと、とても嬉しいです。

(1) はじめに(おことわり)

おそらく質問者様は新書くらいの薄さを想定して私にお勧めの本を聞いてくださっていると思うのですが、大変恐縮ながら私自身がそのような新書を読んだことがないため、私が読んだことのある本の中で「問題の全体像が分かるような本」を2冊ご紹介します。

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(2) アレクサンダー・ベッツ、ポール・コリアー共著『難民:行き詰まる国際難民制度を超えて

私が読んだ原著"Refuge: Transforming a Broken Refugee System"は2017年に出版されたので少し古いのですが、邦訳は昨年出版されたばかりです。

この本は2015年に発生した欧州難民危機を起点として、難民問題の何たるやとその解決策を一般にも分かりやすく解説したものです。
「難民」の定義の解説から始まり、一切の背景知識がなくても読めますのでまずはこちらを読まれることをお勧めします

ちなみに、こちらの邦訳を監修され、次にご紹介する『難民・強制移動研究のフロンティア』の共著者でもある滝澤三郎先生は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日代表を務められた方で、学生・一般向けの本を多く執筆されていますので取っ掛かりとしていいかもしれません。

(3) 補足:欧州難民危機とは

話が脱線しますが、
質問者様の年代を存じ上げないものの、私くらいの年代やそれより下の方は「難民問題」と聞いて、トルコの海岸に打ち上げられた幼い男の子の遺体の写真を思い浮かべる方が多いと思うのですよね。

2010年頃に中東諸国で発生した一連の革命「アラブの春」を1つのきっかけとして、2015年から欧州に難民が大量に流入し始めた現象を「欧州難民危機」と呼びます。前述の写真はまさに欧州難民危機のさなかで撮られたものです。

意外かもしれませんが、難民は皆が皆、受け入れ態勢が整っていそうな先進国に避難するわけではありません。
そもそも難民というのは母国において差し迫った危険に晒されているから難民になるのであって、先進国に避難したくても航空券を購入するだけの金銭的余裕がない、その国のビザが取れない、長距離の移動に耐えることができない等の制約によりすぐに到達することができない先進国を目指すよりも、比較的ハードルが低い近隣諸国に避難する(せざるを得ない)ことが多いのです。

難民が発生する国の近隣諸国に難民が避難してくるということはつまり難民を受け入れる国も発展途上国が多く、2022年末時点で世界中の難民の73%が発展途上国で受け入れられていました(UNHCR (2022) "Classifying refugee host countries by income level", Refugee Data Finder, https://www.unhcr.org/refugee-statistics/insights/explainers/refugee-host-countries-income-level.html)。
これが何を意味するかというと、ただでさえ国内に問題が山積している発展途上国に難民受け入れという更なる負担がのしかかるということです。

それが2015年以降、海を渡った難民が欧州に大挙して押し寄せたことで先進国もやっと難民問題は他人事ではないと認識しました。
だからこそ一連の事象に「欧州難民危機」という名前が付き、世界中で大々的に報道され、人々が難民という存在に関心を持つようになったのですね。

(4) 墓田桂ほか編著『難民・強制移動研究のフロンティア

かつて高校3年生だった私が難民問題を勉強するための最初の1冊として手に取ったのがこちらの本でした。

難民問題のあらゆる側面、アプローチ、地域(日本を含む)がバランスよくカバーされています。この本の中で特に興味の惹かれた章があれば、当該部分を執筆された先生の最近の著書を探してみると次に読むべき本が見つかると思います。

ただしこちらは2014年に出版されており欧州難民危機以降の事象は取り扱っていませんので、そういった意味で是非とも(2)と併せてお読みください。

また、こちらの編著者の墓田桂先生も『難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題』という新書を執筆しておられます(私は読んだことがないので内容の良し悪しは分かりませんが)。

こちらでご質問への回答になっていましたら幸いです。


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