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本音で話すことの大切さ

先日、職場の学校で、ADHDの生徒への対応について、ある先生から意見を求められました。

教室内で当該生徒にADHDの症状が現れることで
クラスの雰囲気がかき乱される…
「またあいつかよ」という雰囲気になってしまうとのことでした。

先生としては、当該生徒がADHDの診断を受けていること、それゆえに、治らない部分については理解してほしいということを、クラス生徒全員に対して告げたらどうか…というご意見をお持ちでした。
もちろん、当該生徒と保護者に相談し、同意してもらえたら…という前提でしたが。

この…障害についてのカミングアウトするか否か問題は、判断するのが非常に難しく
画一的、絶対的な答えはない…というのが
私の考えです。

カミングアウトすることで
より一層差別や偏見を強め、排除の方向に動くこともあれば
理解を生むきっかけにもなる。
本当に繊細な問題です。

クラスメンバーのキャラクターにもよるし
告げる担任教師のキャラクター、伝え方も
その結果に影響を及ぼします。

意見を求められたスクールカウンセラーとして
私は、言葉につまってしまいました。
とりあえずその場では
「カミングアウトについては慎重に…」とだけ、お伝えしました。

その後、よく考えれば考えるほど
私だけでは答えが出ない問題だ…と感じてきて。
「カミングアウトすることがどう転ぶかどうか、わからない」というのが私の率直な意見。

でも…心理の専門職として学校にいる以上
「わからない」と言うことに、やっぱり不安があるんですよね。
専門職として「正しい」意見、一つの答えを出さなくちゃいけない、というプレッシャーがあったりして。

年をとると、経験を重ねると
「わからない」と表明するのに勇気がいる…のです。

でも、私は「わからない」ことを表明することにしました。
だって、私一人のプライドなんかより、ずっと大切にしたい問題だと思ったから。

やっぱり、スクールカウンセラーには限界があります。
一つの教室に一日中、ずっといるわけではないし
クラスメンバーのキャラだって、一面しか知ることができない。

相談してくれた担任教師の性格、生徒との向き合い方、クラス運営のスタイル…教師側の力量だってある。

これはスクールカウンセラーからの視点だけでは
判断しきれない…と思いました。
ここはやはり、担任教師と同じ職種として、
経験豊富な副校長の見立てが必要だと。

実は私の職場の副校長は、細やかな感性をお持ちで、生徒の指導も的確にできる方です。
できすぎるが故に、本当はカウンセラーなんて
必要ないと思っているのでは…と
その言葉の端々から感じられなくもない方で…
(決して表立ってカウンセラーをないがしろにする方ではないけれど)

ある意味、そういう副校長に
「わかりません。」とこちらから差し出すことは
「ほら、やっぱりね。カウンセラーいらなくね」と思われてしまうのではないかと憶測してしまい、ためらいが生じるのでした。

でも、意を決して副校長に相談。
「カウンセラーとしては正解がわからない。
副校長のお力を借りたい」ことを表明。

「わからない」自分、
「頼りにならない」自分を受け入れて、乗り越えて。

すると意外にも副校長は、私の話を最後まで聞いてくださり、理解を示した上で

副校長のこれまでの経験や
現段階で、うまく対応できているときの様子、
障害のある生徒への対応が、上手な先生に協力を依頼すること…などなど
これまでにないほどの情報提供、提案をしてくださいました。
担任教師への声掛けやアドバイス、フォローも請け負ってくださいました。

そして「正解はわからないけれど、わからないなりに、今後も一緒にやっていきましょう」と言って下さり、とても温かいものが二人の間に流れたように感じました。

私が正直に本音を話すことで
副校長も心を開いてくれたようでした。

もしかしたら、これまでの副校長のカウンセラーに対する閉じた感じ・微妙な不信感は
「守秘義務」とか「個のかかわり」を重んじるカウンセラーの行動が、「よく見えない、わからない」不気味なものとして目に映り
だからこそ「構え」られ、ガードの態勢に入ってしまわれていたのかなと思いました。

そして副校長の「本音のよくわからないカウンセラーには頼るのは、ちょっとな…」という思いを、カウンセラーの私が「副校長の不信感」として拾ってしまっていたのかもしれないなと思いました。

そう思うと、副校長のカウンセラーへの微妙な距離感にも納得がいきます。
よく考えると、私だって無意識のうちに同じようなことをしているから。

本音を話さない人を前にすると、その人の心を勘繰ってしまうし、自分の言葉も選んでしまう。

でも一歩引いてみると、私が安心して話せる人というのは、案外、怒ったり、驚いたり、喜んだりを正直に伝えてくれる、ちょっと人間臭い人だったりするものです。

私はカウンセラーだし、それなりに経験もあるお年頃になりました。

だからこそ、心を開くことの恥ずかしさや怖さから逃げるのはもうやめにして
まずは私が自分の心に正直に素直でいようと決意しました。

そうすることで相手も心を開いてくれるのだ…と
副校長とのやりとりの中で、強く思ったできごとでした。


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