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シンデレラガールズというコンテンツ

 アイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツがある。

 なぜ『コンテンツ』と称するのか。それは、アイドルマスターシンデレラガールズ(以下:シンデレラガールズ)が枝葉を大きく広げる、非常に多岐に渡る複合型のコンテンツだからだ。

 まず、その枝葉の中央にあるのはもちろん『アイドルマスター』だ。
 初代アーケードゲームから始まり、今もなお新作ソフトがコンシューマーで出続けている、10年以上の歴史があるアイドルゲームの金字塔とも呼べる存在である。
 プレイヤーは765プロに所属するプロデューサーとなり、13人のアイドルをトップアイドルにするために全身全霊をかけてプロデュースしていく。細かな目的は変われど、この根本的なゲームデザインは変わらない。
 こうしたアイドルマスターは人気を博し、アニメ化、そして劇場アニメ化も行われた。

 そうしたアイドルマスターの系譜としてソーシャルゲームの舞台に飛び出したものが、『シンデレラガールズ』である。(間に876プロによる『THE IDOLM@STER Dearly Stars』がニンテンドーDSソフトとして出ているが、あちらは携帯機としての派生であった)

 アイドルマスターから派生した作品であるシンデレラガールズであるが、今となってはシンデレラガールズ自体が多くの派生作品を生み出している。
 まず、Mobageで配信されている『アイドルマスターシンデレラガールズ』(通称モバマス)。
 次に、スマートフォン向けアプリとして配信されている『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(通称デレステ)。
 この二つのゲームがシンデレラガールズを支える、大きな幹とも言える存在だ。

 そして、アニメーションとなった『アイドルマスターシンデレラガールズ』(通称アニデレ)。
 現在も放送が続いている、モバマス内コンテンツだったショーとコミックのアニメ化作品の『シンデレラガールズ劇場』(通称しんげき)。
 サイコミで連載中の身長149cm以下のアイドル、いわゆるジュニアアイドルを集めた『アイドルマスターシンデレラガールズU149』(通称U149)。
 同じくサイコミ連載中の、こちらは20歳以上の成人アイドルを集めた『アイドルマスターシンデレラガールズAfter20』(通称A20)。
 本編の連載自体は終わったものの番外編が月間チャンピオンにて連載中の、いわゆるヤンキー系アイドルを中心とした『アイドルマスターシンデレラガールズWildWindGirl』(通称WWG)。
 これらのメディアミックス作品は、アイドルの掘り下げに非常に強く影響があり、世界観の広がりを助けている。(注釈:コミカライズは過去他にもあったが現時点で連載中作品を除いて割愛)

 また、Webラジオとして毎週月曜9時から生放送の『デレラジ☆』(通称デレラジ)と、毎週水曜10時から放送の『CINDERELLA PARTY!』(通称でれぱ)の二つがレギュラー放送されている。

 このように列挙したが、ここで重要なのが、これらの作品は細かな設定(例えば舞台となるプロダクションやプロデューサーなど)が違っているが、全てが『シンデレラガールズ』の世界観の上で繋がっているということなのだ。
 もちろん、各種作品を重ねてみれば、そこで設定の祖語が生まれることもある。ただ、それは細かなことなのだ。
 そもそも、ソーシャルゲームという媒体で展開されていて、プレイヤーは“自分の”プロダクション(ゲーム内で名前を付けることができる)を運営し、担当のアイドルを育てていくのがシンデレラガールズというゲームなのだ。プロデューサーの数だけ、シンデレラガールズという世界が存在する。そうした背景がある以上、U149やA20、WWG、そしてアニメ版で違ったプロダクションの姿が出たとしても、それは自分のプロダクションとはまた違う話であるのだ。
 もちろん、違う世界の話だからと切り捨てるのは、それこそ違う話である。そこにあるアイドルの姿は、元より彼女たちが持っていた魅力が現れたものだからだ。アイドル達は舞台が違うだけで、輝き方が違うだけなのだ。

 さて、そんなアイドル達を語るうえで切り離せないのが、声だ。
 先に書いたようにそれぞれのプロダクションでそれぞれに輝き方を変えていても、アイドルに対して共通するイメージは、ビジュアルであり、キャラクター性であり、声である。
 アイドルコンテンツである以上、歌を外して語ることはできない。何より、デレステは音ゲーであり、その歌がメインコンテンツともいえる。
 つまり、切り離して考えることができないのが、声優――中の人である。

 まず、『アイドルマスター』には13人のアイドルがいる。
 シンデレラガールズより後発の『アイドルマスターミリオンライブ』では39人。
 同じく後発の『アイドルマスターSideM』では46人。
 最新作である『アイドルマスターシャイニーカラーズ』では16人。
 合計すれば100人超ではあるが、これらには全て違う声優が声を当てている。男女合わせてこれだけの大人数になるのだから、声優業界の中ではかなりの割合を占めるだろう。(石を投げればアイマス声優に当たる、と言われるほどである)

 では『シンデレラガールズ』である。
 登場するアイドルはなんと183人であり、他の合計数を圧倒する数だ。(アイドルマスターから765ASの13人、ディアリースターズから876プロの3人、韓国版で3人、トレーナー4人がいるが省く)
 だが、シンデレラガールズは他作品とは異なり、全てにボイスが付いているわけではないのだ。これは当初がガラケーでプレイ可能なソーシャルゲーム、つまり容量や通信量を抑える必要があった媒体が理由だろう。
 しかし、『CINDERELLA MASTER』と題されたCDシリーズの発売からボイス実装が行われていき、年に一回行われるシンデレラガール総選挙や、不定期開催でのボイス総選挙など、多くの機会を経て多数のアイドルにボイスが実装されていった。
 2018年8月現在で76人のアイドルにボイスが実装されており、これからも増えることが期待されている。

 そして『期待される』と書いたようにこの“ボイス実装”は、シンデレラガールズの持つ魅力の一つなのだ。

 ここから書くことは、都合のいい妄想かもしれない。だが、こうした側面があることや、こうしたイメージを持つプロデューサーたちが少なからず存在しているのは、間違いのないことでもある。

 先日、シンデレラガールズのアイドルの一人である喜多日菜子にボイスが実装された。
 これは、今年行われた第七回シンデレラガール総選挙で上位入賞したからであり、同じく上位入賞した鷹富士茄子に続いて二人目であった。この後には南条光のボイス実装が確約されている。

 喜多日菜子のボイスを担当するのは、深川芹亜さん。
 超!A&G+の夜帯番組である『FIVE STARS』の火曜パーソナリティを務める人物であり、勢いのある声優である。(ちなみに月曜は黒沢ともよさんで、シンデレラガールズでは赤城みりあのボイス担当である)

 深川さんはブログに喜多日菜子のボイスを担当することについて記事にしてくれていた。その中で、合格を母に告げて返事が来た時に泣いてしまったと書かれていた。

 ここに、シンデレラガールズでボイスを担当するということは、まさに声優さんたちが『シンデレラ』になるシンデレラストーリーなのだと感じさせるものがあった。

 深川さんがアイドルマスターに思い入れがあったかどうかは現時点で定かではない。
 だから、喜多日菜子のボイスを担当することにどれだけの、そしてどのような喜びがあったかは語ることができない。彼女のこれまでとこれからの大きなキャリアを見れば、単なる一つの役かもしれない。
 だけど、深川さんが泣くほどに喜んでくれる、そしてそのボイス実装を知ったプロデューサーたちもまた同じように喜んでいるというのは、事実なのだ。

 アイドルマスターは10年を超えるコンテンツだ。
 言い換えれば歴史がある。
 だからこそ、一部の声優――特に、今の若い子たちは「アイドルマスターを見て、声優に憧れた」という子も少なからずいると思われる。(例を挙げれば、関裕美のボイスを担当する会沢紗弥さんは元からシンデレラガールズを遊んでいたプロデューサーであり、現在18歳のシンデレラガールズ内で最若手に入る人物である)

 だが、アイドルマスターは完成したコンテンツだ。
 765プロの13人――765AS(オールスター)と呼ばれるほどであり、少なくともコンシューマーの『アイドルマスター』作品に新たにアイドルが入る余地はない。(最新作で961プロ所属アイドルとして詩歌が追加されたが、ライバルプロダクションであることもありイレギュラーとする)
 ミリオンライブにいるのは、舞台が変わり、専用シアターで活動を行うため新たに765プロへアイドルを追加するという形(作中では39プロジェクト)での新規アイドル39人であり、これもまた今後変わらないものだろう。
 SideMやシャイニーカラーズでは増える可能性があるが、それも上記の二作品のように、新たな設定を追加するように大掛かりなものであり、ユーザー側から確認できるものではない。

 つまりアイドルマスターに憧れて声優になったとしても、アイドルマスターに踏み入れる場所と言うのは基本的にないのだ。
 ――今もなお、増え続けているシンデレラガールズというコンテンツを除けば。

 シンデレラガールズ、ひいてはアイドルマスターのコンテンツで、“脇役”と位置されるアイドルは存在しない。
 公式サイトでは、

 『190名以上のアイドルが登場!
 キミはどのコをプロデュースする?』
 といったキャッチコピーも存在する。

 そして実際に、多くのプロデューサーが各アイドルをそれぞれに担当している。これは全てのアイドルに各担当がいる、と断言できるほどでもあるのだ。
 それはつまり、全てのアイドルが主人公で、シンデレラガールズの代表曲である『お願い!シンデレラ』にも「誰もがシンデレラ」という歌詞は登場するように、トップアイドルになれる可能性を秘めた『シンデレラ』なのだ。

 大げさかもしれないが、ボイスを当てる声優さんたちが、コンテンツに憧れを抱き、そうした『主人公=シンデレラ』の役を願い、努力し、そしてつかみ取る。
 ボイスが一つ実装される。単なるそれだけのことかもしれないが、そこの裏には多くの物語が――シンデレラストーリーがあるのかもしれない。
 それは間違いなく、素敵なことなのだ。

 ささやかながらではあるが、自分が支えるコンテンツでそうした物語が生まれているのは、シンデレラガールズだからこそできる掛け替えのない繋がりなのだろう。

 アイドルマスターシンデレラガールズは、これからもそうした、魔法のようなコンテンツであり続けてほしい。

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