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その人がそこに生きていた証を。

昨夜のこと。

寝ようと思ったら、昔の恋人の訃報が届いた。

別れて以来、もう10年ぐらい連絡もとっていない人。なんだか実感が湧かなくて、悲しいのか空虚感なのかよくわからない気持ちで眠りについた。

今日、古いハードディスクをパソコンにつないで、彼の写真を探してみた。訃報を知らせてくれた友人が、もし写真があったら送ってもらえないだろうかという彼のお母様の望みを教えてくれたからだ。

写真撮られるの好きじゃない人だったもんなあ。自分の写真を家族に送るようなことなんて絶対してなかったんだろうなあ。

***

彼と出会ったのは2007年のこと。グアテマラの日本人向けの宿だった。ふらっと訪れた大学生のわたしと、その宿に半ば住んでいたひとまわり以上年上の彼。何がきっかけで話すようになったのかはすっかり忘れてしまったけれど、地元の人しか辿り着けないような秘境があると聞いて、連れて行って欲しいと彼に頼んだのが仲良くなったきっかけだった。

その後、半同棲と遠距離を繰り返しながら(彼はよくグアテマラやエルサルバドルに長期で行っていた)、2年半ぐらい付き合った。彼が日本にいる時はあちこち出かけたし、決して思い出が少ないわけではない。

なのに、だ。

写真が全然ない。

びっくりするほどに、ない。

当時わたしはまだ写真にハマる前だったけれど、とはいえ携帯やデジカメで撮った旅行先の写真はたくさん残っていた。なのに、彼の写真がない。

結局2年半分の写真をひっくり返して、出てきたのは10枚ほど。いくら写真に撮られるのが嫌いだったからって、嘘でしょ。なさすぎでしょ。わたしが保存し忘れてどこかに行ってしまったり古い携帯に入りっぱなしになっている写真たちもあるとは思うけど、それにしたって…衝撃である。

ねえ、これじゃあ思い出に浸ろうにも、浸れないよ。そりゃあわたしの勝手な心変わりでさよならして以来連絡取ってもなかったけどさ、それでもあの2年半でたくさんの世界を見せてくれたのはあなただし、就活の時に支えてくれたのも、社会人の厳しさを教えてくれたのもあなただし、わたしが他のことをしながら電話してた時に電話ごしに叱ってくれたのを今でも覚えてるし、間違いなく、わたしの人生において欠かすことのできない大事な存在だったのに。

今だったら、嫌がられようがなんだろうが、わたしはきっとたくさんあなたの写真を撮る。あなたという存在がこの世界に確かにいたんだという証を残す。

そしてあなたの訃報を聞き、あなたのお母様が写真がほしいと言ったとき、思い出話と一緒にたくさんの写真を渡す。

それがたぶん、わたしがあなたのお母様に出来る唯一のこと。

なのに、さ。その写真の少なさよ。

せめて今手元にある写真は今度、お母さんに渡すね。今度の日曜日、グアテマラで一緒に秘境に行った友達とお墓参りに行くって言ったらさ、その時お母さん、会いに来てくれるんだって。今になってはじめましてだけどさ、あの頃家族の話全然してくれなかったけどさ、どれだけお母さんに愛されてるか、ねえ、わかってる?そんなお母さんがいるのに、病院嫌いだからって体調悪いのほっといて仕事でベトナム行ってそのまま人生終えちゃうなんてさ、バカでしょ。ほんとバカ。

あの頃はあなたの方がよっぽど大人で、わたしがあなたにお説教することなんてなかったけど、今ならばしっと言うよ。わたしも一応それなりに、大人になったつもりだから。

***

写真を撮る意味を、ずっと考えていた。"かけがえのない今"を切り撮っておきたいと思った。

でも、今回あなたの写真が全然なくて、意味が1つ、増えた。それは、大切な人の記憶を残すため。その人がそこに生きていた証を残すため。

それがいつか誰かの救いになるかもしれない。

いつかわたしの救いになるかもしれない。


心から、ご冥福をお祈りします。
どうか安らかに。

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旅が好き。写真が好き。文章が好き。わたしが見たこと感じたことを徒然なるままに。世界は広くて美しい。
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