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自己犠牲ヒーロー(緒方シュウ)の人生2周目(ネタバレ有り)【engage kiss】【エンゲージキス】

突貫で書いてみました。全く綺麗な文章じゃありませんが、engage kissって何を描いた作品なのかって少し考えました。

engage kiss 1話冒頭 カフェのシーン

アヤノ「いつまで過去(12年前のこと。妹含め家族の喪失)のことに拘ってるの?そんな後ろ向きな考えは止めてもっと将来のことを考えなさいよ。貴方の人生でしょ。(家族とは関係なしに)」

シュウ「俺にとって何が過去で何が将来なのかは俺が決める。(勝手に過去のことにしないでくれ)あ、アヤノさんの言う通り俺の人生なんだよ。」
アヤノ「けど、だからこそ。(新しい道を歩むと[私と一緒に、、とか]決心する時じゃないの?)」

シュウ「そっちの会社を辞めた時、そう決めたんだ。その為に独りで頑張って、餓死しようが、孤独死しようが後悔しないって」

これはengage kissという作品における主人公(シュウ)の決意表明みたいなもので、自己犠牲精神の賜物。価値観なわけです。彼が幼い頃に両親も妹も失い、世間からはある種冷ややかな視線を浴びて育ってきた主人公という一面。個人的にはやさぐれも入ってると思います。必死に「自分を大事にしろ」と説得したいアヤノに対し強烈な反抗の態度を見せる。皆さんここまで視聴してきたらご存じの通り、シュウは目的の為に自分の記憶を悪魔(キサラ)に食わせてキサラの本当の力、人智を超えた力を引き出して敵対する悪魔を退治する主人公です。しかし、

アヤノ「独りじゃないわよね?今。食べさせて貰ってるみたいだし、どうみいても孤独死なんかしそうに・・・(怒)」

とまあこんな風に(笑)キサラを道具として使い、一匹オオカミ気取りの主人公も客観的に見れば、他人の世話になってるだろっていう女性らしい鋭いツッコミ。主人公にだって日常生活ありますから。銃をぶっ放して悪魔使って悪魔退治してるだけじゃありませんから。

この後、事件の真相(目的)に近づくにつれ、シュウの自己犠牲精神(記憶の譲渡とキサラの力への変換)は加速し、力を益々求めていくことに。そこに三上刑事と言う信頼できて能力もあってお人好しで理想的な刑事が現れることで警察と協力し他人の世話になり皆で解決していくという選択肢が出現するのですが、敵が強大になっていくことで更に能力に頼らざる負えなくなり記憶の損耗が激しくなっていきます。ここは見ていてとても辛くなる流れでした。やはり本人は意識できなくても周りの感情はボロボロに擦り切れていくわけです。9話のマイルズを倒した後のシュウの周りの顔が顕著で、育ての親マイルズのことを完全に悪魔と見做して蔑んだシュウへ誰も顔を向けることができないで俯いてしまう。

10話、シュウの中からアヤノさんの記憶の存在すら怪しくなり又シュウの母親(なりすまし)が憎き敵と同一であるというキツイ事実を目の前に、バディであったキサラですら事件からシュウを遠ざけようとします。道具として傍にいて、シュウの生き方を肯定し運命共同体であったはずのキサラ。彼女が道具として扱われていたのは、彼女との生活に全く関心を向けられていなかったことからも確かで、そういうシュウの割り切りや嘘(悪魔との共同生活)を良しとしてきた最大の理解者であるはずのキサラが反逆する。シュウを守る為に。

11話、散々周囲を騙し誤魔化し(キツイ言葉だがシュウは殆ど本音を語らず、目的の為にある種空っぽの人生を生きてきた)目的の為に邁進してきたシュウが遂に自らの最大の拠り所であったその目的を記憶喪失の結果、見失ってしまう。


シュウ「なあキサラ、俺はどうしたらいいのか分からない。何の為に戦っているのかも。誰の為に戦っているのかも。教えてくれキサラ、おれはどうしたらいい?誰もいない辺鄙な地で、お前と出会った洞窟で暮らしていけばいいのか。街を捨てて、友を捨てて、家族を捨てて、ただお前と一緒に・・・家族?俺に家族なんていたんだっけ?」

道具であるキサラを伴侶扱いし依存するしかない自己犠牲精神の末路。かなり皮肉が効いている。キサラは悪魔なので本来ならばこの結果は受け入れるべき成果。堕ちきった彼と二人きりで逃げればいい。しかし、シュウを誰もよりも近くで見て、内心苦楽を共にしてきたであろう擬装パートナーの彼女は最後に自分に散々されてきた意趣返しでもってシュウを救います。


キサラ「そんなのどうでもいいよ(嘘)。貴方は私以外のことを全て忘れてもいいよ。(赦し安らぎへと導く嘘)私がずっと面倒みてあげるから。(嘘)以下略」
シュウを安心させる為の愚かで優しい嘘だらけ。「できないくせに(小声)・・・」ここだけ本音が漏れる。

こういった嘘は7話のvs.シャロン戦のキサラとシュウのやりとりを見ても分かるように、シュウがキサラに散々やってきたことで。愚にも付かない嘘。しかしキサラはこのままシュウを堕落の底へ導くかと思いきや、土壇場でシュウと同じように自己犠牲精神を発揮する。自らの現存する全ての記憶をシュウに返還した上で契約を破棄する。しかし結果はシュウを救うことになる。なんという意趣返し。そして全ての記憶を取り戻し、キサラの記憶まで手に入れたシュウは全てを知ることになる。自分が犠牲にしてきた数々を。他人にどれだけの悲しみや苦しみを与えてきたかを。そして最も大事にすべきバディが全てを忘れてしまったことを。自己犠牲野郎のご都合主義は瓦解しました。見て見ぬふりしていた真実を突き付けられることによって。

シュウはキサラに救われ、もう一度主人公として立ち、新たな道を選べる選択肢を与えられた。少しパワーアップして人生2周目。いよいよ半悪魔とかした妹のカンナと12年振りの再会を果たす。


シュウ「覚えているか?覚えているよな、カンナ。ずっと探してた。お前を救い出すために悪魔の力だって借りた。何もかも捨てたって構わないって思っていた。」これが悲劇の自己犠牲ヒーローですね。


「けど、今はちょっとだけ違う思いを抱いている。カンナ俺はお前を取り返す。この街でもう一度一緒に暮らす。けどその為に何も捨てない。これ以上無くさない。お前は勿論、大切な人達も、この街も。大丈夫できる。お前も知ってるだろ、俺は悪魔と一緒に暮らしてる多分世界でただ一人の人間だ。だからごめんなカンナもう一度お前を封じる。」

理想を抱いてしかし、現実も見て、自分を大事にして他人も守って、その逡巡の結果悪魔としての妹を封じる。この自信はキサラの記憶によって与えられたもの、キサラとシュウとアヤノとシャロンとベイロンシティの人々の間で共有された体験によって培われたもの。シュウがここの解に到達するためのアニメだったんですね。主人公してる。

そして奇しくもシュウが対峙するカンナは自堕落な兄、自分を大事にしてこなかったシュウがより成長させてしまったモンスターだという。シュウが過去の自分の責任を取る。勿論そこには悪魔の介入があるわけですが。悪魔が仕掛け、悪魔が育てたのがカンナという事実を忘れてはいけない。激怒と情欲の魔神アスモデウス。シュウの爛れた女関係でカンナを飼育。engage kissの悪魔ってこういうことなんでしょうね。世界征服とかそういう次元じゃない。我々の欲望を糧に悪さをして人間に混沌をもたらし、増幅させる。果たして命よりも欲望を優先するベイロンシティから悪魔災害が無くなるのだろうか。副市長は高らかに悪魔との共存を宣言していたので望む薄ですね。だからゲームでるんだしw
最終話は大団円を迎えるとのことですが、果たしてどういう理屈で収まるのか、キサラやカンナをシュウやベイロンシティが再びどのように迎え入れるかが見どころになるのではないでしょうか。キサラの二度の変身も見たいな。何かしらの記憶の開示や告白を出してくるのか。楽しみですね。


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