【MTG】白緑重厚/WG Backbone【スタンダード】

 スタンダードでようやく重厚(パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る)デッキが形になったのでここに記す。
 まずはデッキリスト(MTGA形式)から。

デッキ
9 森 (UST) 216
4 市場のノーム (LCI) 22
1 隠された生育場 (LCI) 276
2 結婚式への招待状 (VOW) 260
4 キスキンの雄山羊乗り (MOM) 24
2 皇国の地、永岩城 (NEO) 268
1 隠された中庭 (LCI) 274
3 屈服の拒否 (SNC) 27
10 平地 (UST) 212
4 硬化した屑鉄喰らい (ONE) 158
4 世渡り上手の交渉人 (MOM) 207
1 カイラの再建 (BRO) 10
4 床岩の亀 (LCI) 176
2 軍備放棄 (BRO) 11
3 侵入者の放逐 (WOE) 13
2 運命的不在 (MID) 18
4 歓迎する吸血鬼 (VOW) 46

左から除去、コンボパーツ、マナクリ、主役、ドロソ、重厚、捲り札、土地

 このデッキは何をするのかというと、《キスキンの雄山羊乗り》を重厚にし、《屈服の拒否》で20点超のダメージを与えるものだ。
 なぜそのような挙動になるのか。これから解説する。

 まず、《キスキンの雄山羊乗り》とはこれだ。

MTGでは珍しい女騎士

 3マナ1/3で二段攻撃を持つ、見ただけだと2/3とさほど変わらないクリーチャーだ。もちろん、二段攻撃なのでタフネス1のクリーチャーには一方的に勝てるのでその分強い。

 次に、《屈服の拒否》とはこれだ。

なんか妙にタフネスが上昇する

 対象のクリーチャーに+2/+7の修正を与え、ついでにアンタップする。
 せいぜいリミテッドでブロッカーの生存力を上げながらタップ状態からでも奇襲的にブロックできるコンバットトリックと言ったところだ。
 この《屈服の拒否》を《キスキンの雄山羊乗り》に使うと、3/10二段攻撃のクリーチャーになる。
 パワー3の二段攻撃は、それなりに強いがカード2枚を使ってやることではないのでは?
 その通りなので、ここに《キスキンの雄山羊乗り》を重厚にするカードをぶち込む。
 重厚とは何か? パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振ることである。最新のカードで言えば、《床岩の亀》の能力がそれだ。

3マナになれ……

 このパワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る状態は、MTGAで重厚/Backboneと表記されている。パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振ると長々表記しても目が滑ると思われるので、この記事でも以降はパワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振ること、あるいはその状態を重厚と記述するのでご了承願う。

 重厚について理解をしてもらったところで、先ほどの3/10二段攻撃となった《キスキンの雄山羊乗り》を思い出してもらいたい。
 重厚の影響下であれば、この状態の《キスキンの雄山羊乗り》は事実上10/10二段攻撃なのだ。
 3/10二段攻撃はカードを2枚使ってやることではないが、10/10二段攻撃ならば、やる意義はあるだろう。重厚にするカードの分、必要カードが1枚増えているのは見ないものとする

 最速の手順としては、3ターン目に《キスキンの雄山羊乗り》を出し、4ターン目に2マナで、賛助能力によって+1/+1カウンターを乗せたクリーチャーを1ターンだけ重厚にする《世渡り上手の交渉人》を出して、残った2マナで《屈服の拒否》を《キスキンの雄山羊乗り》に撃つという動きだ。

本人は常に重厚なのが地味に偉い

 上記の動きだと《屈服の拒否》を撃つ直前まで《キスキンの雄山羊乗り》は実質4/4二段攻撃のため、クリーチャーを一方的に取られることを嫌ってブロックをされなかったり、8点は受けても良いといった具合にスルーされやすく、思ったよりスムーズに攻撃は入る。
 そうなればもう、《屈服の拒否》でタフネスを7上昇させ、実質11/11二段攻撃と化した《キスキンの雄山羊乗り》で22点パンチを叩き込んで勝ちである。本邦の女騎士と言えば「くっ……、殺せ!」から始まる敗北シチュエーションが有名であるが、MTGの女騎士は屈服を拒否して相手を倒せるのだ。

 もちろん、常に最速の動きが決まるわけではないし、二段攻撃というだけで除去されることもある。
 しかしこのデッキでは他のクリーチャーに《屈服の拒否》を使うことでも打点の上昇が可能だ。
 序盤の壁兼ドローソースとして入れている1マナ0/3の《市場のノーム》でさえ、重厚の影響下では《屈服の拒否》を使えば10点が出せる。
 特にデッキの中核である《世渡り上手の交渉人》と《床岩の亀》は最初から自身の能力で重厚であるため、既存の重厚デッキの弱点だった、重厚にするカードがないとクリーチャーが戦場にいてもタフネスを妙に上昇させるカードが腐るという欠点をほぼ克服している。《市場のノーム》だけ立っててドローが《屈服の拒否》とかたまにあるけど。

 0/6の《床岩の亀》なら《屈服の拒否》でタフネスが13になるので《キスキンの雄山羊乗り》ほどではないが大きな打点になるし、限定的な状況ではあるが、《世渡り上手の交渉人》に《屈服の拒否》を2枚使って実質16/16を作り出して勝ったこともある。
 不安定な上にクリーチャー依存のコンボデッキだが、わずかなチャンスで勝利することができるのは大きい。《古きもつれ樹》しかなかった頃はワンチャンもなくてさ……。

 実は最速の手順に使われている《キスキンの雄山羊乗り》、《世渡り上手の交渉人》、《屈服の拒否》はイクサラン:失われし洞窟以前のカードである。
 最も新しい《キスキンの雄山羊乗り》と《世渡り上手の交渉人》は機械兵団の進軍のカードであり、その時点でもこのコンボは成立していた。
 なぜ、今になってデッキが組みあがったのか?
 それはエルドレインの森とイクサラン:失われし洞窟の参入が大きい。
 機械兵団の進軍以降、この2つのセットに収録されたカードの追加で、ようやくこの重厚デッキは形になった。

 《世渡り上手の交渉人》は先述のように賛助によって1ターンだけ賛助先のクリーチャーを重厚にする。1ターンだけなので、機械兵団の進軍直後にコンボを達成するには《キスキンの雄山羊乗り》の先出しが必須であり、そのため2ターン目でも手札に2マナの《世渡り上手の交渉人》を抱えたままターンを渡さざるを得なかった。
 現在ではイクサラン出身の《床岩の亀》がいるため、2ターン目に《世渡り上手の交渉人》を出してテンポ損をしない動きをしてもキルターンは伸びるがコンボの完遂は可能である。
 8枚あればデッキになるという言葉があるが、重厚にするカードが8枚体制になったことでプレイングの余裕が生まれたのだ。
 《床岩の亀》の4マナという重さと、さほど除去耐性になっていない除去耐性に関しては思うところがあるが、それはこの記事とかこの記事とかで語り尽くしたと思うのでここでは触れない。

 加えて、1マナ0/3で死亡時に1ドロー1ゲインを行う《市場のノーム》の存在もある。
 機械兵団の進軍までの1マナと言えば0/4の《斡旋屋一家の新入り》くらいしかおらず、重厚にするカードが《世渡り上手の交渉人》しかいなかった頃は自身の能力で5/5になれなければ基本的にチャンプブロッカーとして散っていくことしかできなかった。
 一方《市場のノーム》は重厚になれなかったときはドローを進めて重厚カードを引き当てる可能性を高め、重厚になれたなら1マナ実質3/3のクリーチャーとして展開できるため、状況に依らず役割があり、デッキにおける潤滑油となってくれる。
 イクサラン:失われし洞窟でこのデッキが得たものは割と大きい。
 加えて、直前のエルドレインの森にて《侵入者の放逐》という重厚デッキと相性の良いカードがあったのも追い風だ。

 重厚にするカードが引けないと、盤面に打点の出ないクリーチャーを置いて、対戦相手の攻撃をしのぐことになる。
 採用しているクリーチャーのタフネスはそれなりに高く、また、自身に+1/+1カウンターを乗せて実質3/3となった《世渡り上手の交渉人》が立っているとそれなりに膠着状態になることが多い。
 しかしその状態で《黙示録、シェオルドレッド》やPWのような、立っているだけで強いカードを置かれるとそのままゆっくりと負けてしまう。
 《侵入者の放逐》はそれを一方的に吹き飛ばしてくれる。

選ばれた数以上なので吹き飛ばしたいクリーチャーのパワーに合わせて数字を選ぼう

 このデッキに入っているカードはパワー2以下しかおらず、昨今のカードは数値的な意味でもパワーが高いカードばかりなので、パワー3以上を選べば対戦相手のクリーチャーだけを吹き飛ばすことができる算段だ。
 あるいは、単純に劣勢状態で全体除去としても使える。
 重厚にするカードが既にあるならそのまま押していけるし、そうでなくとも一方的にクリーチャーの数で優位になれるので重厚にするカードを引く時間が稼げるのは大きい。

 《侵入者の放逐》を入手した時点では《床岩の亀》がおらず、コンボに頼り切ったデッキだったので、一方的に盤面を吹き飛ばしても、なお勝てないことが多かったが、イクサランにて《床岩の亀》を入手した現在では吹き飛ばして時間を稼げれば敗北することは少なくなった……気がする。

 こうして、各カードが奇跡的に噛み合ったことにより、この白緑重厚というデッキは生まれた。
 このデッキの完成により、もうとっくに味のない《古きもつれ樹》をしゃぶるような事態からは脱却できたと言えよう。

 本当の最初期には今では2枚に減った《結婚式への招待状》でドローを進めながら《キスキンの雄山羊乗り》を《世渡り上手の交渉人》で重厚にし、招待状の起動型能力でアンブロッカブル22点をぶち込むだけのデッキだったが、イクサラン:失われし洞窟によって得たパーツによって多少なりとも除去やクリーチャー戦に強くなった。
 重厚というメカニズムは基本的に重厚向けのカードがデザインされたセット内で完結しがちで、環境が進めば進むほど置いていかれるのだが、今回のデッキに限っては新しいセットが必要不可欠だったと言える。
 新セットが出て強化されるというのは、なんだか普通のデッキを握っているような錯覚に陥るが、できることならこの錯覚を重厚デッキで味わい続けたいものだ。

 さて、このデッキは一応の完成を見たが、それでもまだ弄れるところはある。
 特に土地基盤は非常に貧弱で、土地事故が良く起こるため、基本土地を削って2色土地を入れたほうが良い。《耐え抜くもの、母聖樹》も2枚ほどあると良いだろう。
 また、墓地対策にもなるからと《硬化した屑鉄喰らい》を採用しているが、油カウンターが3つ乗ってしまうとパワーが3になり、《侵入者の放逐》で巻き込まなければならない事態がままあった。
 2マナ以下のマナクリでタフネスが高ければ良いので2マナ1/3でおまけのついている《ラノワールの壌土語り》と入れ替えたほうが良いかもしれない。
 もし更なる改善案を見つけた場合は、あなたがそれを何らかの手段で公開してくれることを願う。

 以上で白緑重厚の解説を終わる。

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