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布の庭にあそぶ 庄司達/(名古屋市美術館2022.4.29〜6.26)について

展示室に入ってすぐ、背負っていたリュックが異様に重く感じられた事を思い出している。展覧会図録と文庫本それぞれ一冊分の、意識すればやや重い、といった類の重さ。それが急に重くなったこと。

展示室にはまず、《白い布による空間 マケット》シリーズのマケット6種が配置されていた。一辺50cmくらいだったか、直方体のフレームの中に、白い布が多数の支点で吊り下げられていて、その支点の配置によってさまざまなたわみ方/張り詰め方を見せる。それは布の一部を切り取った作品の場合さらに複雑になる。展示空間に入ってすぐ感覚が変わる。身体は軽く、リュックが重い(重いので、一度コインロッカーに預けに戻った)。

続く展示スペースでは、同様の構成を等身大サイズの立方体で展開した、《白い布による空間》シリーズが8点配置されている。同作品は名古屋市美でも幾度か見たことがあったけれど、シリーズをまとめて見たのは初めてで、まとめて展示されたのも初らしい。先のリュックの重みの件と同様、その空間に入ると身体の感覚が変わることに驚く。

吊り下げられた布を見つめていると、空間を占めているのはある種の浮遊感なのかと思える。それが歩き回っているうちに段々と、糸によって張られた布の張力の方に意識が向いていく。そういえば重力も自明の重さではなく、常に引力同士の関係だったと思い当たる。張られて緊張した布、弛緩した布、そうした力が四方八方に空間全体を占めている。白、というニュートラルな色も効果的に機能しているのかもしれない。視覚情報として認識している力関係が、身体全体の感覚に影響してくる事が面白い。心が軽い、という言い回しを、文字通り心臓あたりに物質的に感じるような軽さ。

第二展示室はより大掛かりなセットの作品で、白い布は大サイズで四方を引っ張られ、大きな竹串のような無数の木でそれを支えている。
《Navigation Arch No.11》では、その竹串然とした木々の間を通る事ができた。どこか一つでもその支えに引っかかり倒してしまうと、全体のバランスが一気に崩れてしまうやうな怖さがある。恐る恐るといった様相で皆それをくぐっていた。で、後ほど、ベビーカーを押した来場者が通る時に、学芸員の方がおもむろに竹串を動かしてそれ用のルートを作っていて、意外にもしっかり支えられていた事を知る。一本二本ずれたところで布は微動だにしない。
絶妙なバランスでぎりぎり成り立っているように思えたそれは、身体的な防衛反応をどことなく引き出してくるのだけれど、視覚からの情報がおもむろにそれを裏切ってしまった。

見ることが身体に作用して、そうやって得られた身体の感覚を、見ることがまたズラしていく、ひとまずそれは、とても楽しい感覚だった。

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