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「そこに、君の死体が埋まっている」番外編③「そこに、僕の死体が埋まっている」後編

 信じられなかった。きっと、何かの冗談だと思った。
 そうだろう?
 だって、僕たちはあんなに愛し合っていたんだから。きっと、恥ずかしいんだ。

「ごめん。でも、こうでもしないと、理くんは逃げるだろう?」
「放せよ……!!」
「嫌だ、ねぇ、教えてよ。さっきの続き」

 後ろから君を抱きしめ、肩に顎を乗せ、熱くなっている下半身を君に押し当ててた。それがあの夏の二人を彷彿とさせて、僕は幸せだった。実際に君に触れると、全然違う。君の体は思っていたよりずっと冷たくて、僕の体温で温めてあげなくちゃと思った。震えるほど、寒いんだね。

「ずっとこうしたかった。理くんに触れたかった。きっと、僕と君の席が逆だったら、僕は耐えられなかったと思う。ずっとずっとずっと君とあの動画のように、触れ合いたかった」
「やめろ……俺は————」

 また君は否定した。でも、僕は知ってる。恥ずかしがっているだけだ。

「んっ……ぅ」

 君の唇は甘かった。逃げる舌を追いかけて、何度も捕まえて絡め取る。僕はそのじゃれあいが楽しくて、幸せで、心地が良かった。
 でも、少し妙な感じがしていた。体が変だ。ここは僕が埋まっている場所から少し離れすぎているせいだろうか。人間の姿を保っているのが少し辛く感じる。変だ。何かが、おかしい。

 それでも、やめられなかった。その先の快感を求めて、君とさらに深く繋がろうと、君の腰に手を回してもっと強く抱きしめようと思った瞬間、僕は君に突き飛ばされていた。

「何するんだよ」
「それは、こっちのセリフだ……!! お前、誰だ」

 僕の体は、背中から個室の壁に激突して、ずるりと床に落ちる。立っているのが少し難しい。体が崩れそうだ。

「誰って、何言ってるんだよ。堀だよ。堀龍起。君のクラスメイト。君の恋人」
「違う!! お前は違う!! 堀は……堀龍起は————」

 君は僕の方を見なかった。その場にしゃがみこんで、頭を抱えて……

「————俺が殺した……生きているわけがないんだ……!!」

 そう言って、ボロボロと涙を流していた。

「変なの。殺したくせに、なんで君は泣いているの?」
「は……? 泣いてなんか————」

 自分が泣いていることにも気づかないほど、僕のことを思ってくれていたんだね。嬉しい。すごくすごく、嬉しい。

「泣かないで、理くん。大丈夫だから」
「何が……?」

 もう少し。もう少し手を伸ばして、また君に触れたい。僕のために涙を流している君を、この腕に抱きしめたい。

「————君はちゃんと殺したよ。そして、あの山に埋めた。大丈夫、彼は死んだ。君が殺した。堀龍起を、君はちゃんと殺した」

 触りたい。触りたい。
 君に触りたい。
 僕はずっと、君を待っていたんだ。

「大丈夫。理くん。今は僕が堀龍起だから、ちゃんと愛してあげるから。ねぇ、泣かないで……?」
「今は……?」

 涙を袖で拭って、君は僕の方をやっと見てくれた。

 でも、もう限界だった。
 僕の体は人の形を保っていられなくて、土に戻ってしまった。

 *

 もう一度、人間の姿に戻ろうと、僕は僕が埋まっているあの場所を目指して進んだ。土の体は、人間の体よりずっと進めなくて、時間がかかってしまった。
 どうにかたどり着いて、一番近くまで行ってみると、誰かがあの場所を掘り返しているのが見えた。

 理くんだ。
 理くんが、僕に会いにきてくれたんだ。

「なんで……お前が、ここに……————」
「なんでだろうね」

 君は僕を見上げている。そうか、よかった。
 僕はまた人間の姿に戻れたんだね。

「お前、一体、なんなんだよ」
「言ったじゃない。堀龍起だよ」
「そういう意味じゃ……」

 嬉しくて、僕はまた君の上に覆いかぶさった。君が埋めた僕の骨と今の堀の間に挟む。ずっと、君たちとこうして遊びたかったんだ。願いが叶って、僕は嬉しい。

「やめろ!! いい加減に————……」
「僕ね、君とずっと遊んでみたかったんだ」

 声を真似してみた。小学五年生の、夏休み。あの小屋で僕たちが遊んでいた頃のような声になるように。

「理くん、理くん……」

 愛おしくてたまらない君の名前を呼んだ。

「ずっとこうしたかった。理くんに触れたかった。ずっと一緒にいようね。ここなら誰にも見つからない」

 僕の体はまた土になった。
 君が他の誰かに見つからないように、愛しい君が僕だけのものでいてくれるように、隠すことにしたんだ。
 誰にも邪魔させない。
 君とずっと溶け合っていたい。永遠に。

「この山は、僕たち二人だけの秘密基地。そこに、僕の死体が埋まっている。だから、一緒に————底に、君の死体が埋まっている。そんな場所にしよう」

 これからは、ずっと一緒にいようね。

 もう、君は僕で、僕は君なのだから————

【了】


本編第1話はこちら↓


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