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夏はふいに幻を見せてくるし、少年たちは鮮やかに夢を紡ぎだす

「DREAM BOYS」は、ただ少年たちが夢を見るだけの単純明快なストーリーではないと知る。

純粋に夢を追い求めた時間は過ぎ、いつのまにか夢に蹴られ殴られて、それでもまた夢に想いを馳せる。夢に憧れ、弄ばれ、それでもなお夢を追い続ける、まっすぐな瞳をした少年たちが舞台の上に立っていた。

行って来ました、9月12日。わたしは一生忘れない、帝国劇場の座席に座ったあの感触も、温度も、匂いも、目の前の景色も。彩られた世界にただただ言葉を失って見入った三時間。映画のレビューを書くように感想をまとめていたらあまりにも長くなりそうだったので、とりあえずお先にさっさと主役二人について述べてしまいたいと思う。



二年前の試合から確執が生まれたユウタとジン。彼らを慕う弟分たち。不穏な動きを見せるマネージャーのマダム、リカ。それぞれの思惑とすれ違いが入り混じる。簡単に誰かを憎み、恨み、だれもが疑心暗鬼になった。血は流れ、人は倒れ、逃亡劇が生まれた。そんな絶望の物語の末にわたしたちに差し出されたラストは、予想外にもあたたかく、未来を優しく包み込み照らしてくれるような、魔法をかけてくれるような結末だった。



まず第一に、ユウタが完全に岸くんだった。驚いた、岸くんしかできないユウタがそこにいて、それがまず何よりも嬉しかった。じぶんより相手が優先で、大事なことは全部ひとりで背負い込んで、なるべく明るく、いつでも健気に、そんなユウタがあまりにもひたむきで頑張り屋さんで、その背中をぎゅっと抱きしめてあげたくなった(※ アラサーが背筋フェチだからとか、そういうやましい理由は一切ありません)

桟橋のアドリブではユウタとユウトのワードセンスが光る回で、「タッパはあるよ!」とキラキラスマイルなユウトにちょっと吹き出しながら「タッパはな!タッパはじゅうぶんあるよ!」といったん認めてあげつつ、「でもバディが大事だから」とやたら綺麗な発音でユウトをいなす。この時点で、「タッパ」と「バディ(流れるような発音)」という単語が出てきただけでずいぶんしんどい。
さらに会話は続いて、「おれ肋骨出てきてるしな…」と自身の胴をさすりながら真面目にさらりと言ってのけるユウトにも、「マッスルフレンドになれ」とどうやらかなり信頼のおけるお友だちらしい〝筋肉さん〟をやたらべた褒めするユウタにも、可愛くて可笑しくてアラサーはずっと肩を震わせていました。「筋肉は裏切らないから」とどこまでもお友だちの〝筋肉さん〟をかばうユウタに「おれも裏切らないよ!」と返したユウトはとても偉い子、素直な子。

これだけでもじゅうぶんおなかいっぱいだったんですが、筋肉をつけるために大事なことはなにかとユウトに問われ、「じぶんに納得いかないことだ」とちょっとドヤって言ったわりにあまりいい反応が返ってこなかった岸くんがやはり可愛かった(ここでもう既にわたしのなかで一生懸命おしゃべりしているのはユウタではなく岸くんになっていた)「テンポアップだよ!」と一生懸命くいくい上を差しながら言う岸くんも可愛かったが、「アップ違いでは?」と訝しがるユウトに違う表現を引き出してもらって、なんだかうまく話にオチがついた感じになっていました。
なんだこのくだり、可愛いな。この舞台が円盤化した暁には、全公演の桟橋アドリブシーン、特典パッケージにつけてくれてもいいんですよ。ユニバーサルさん、こちらいくらでも大歓迎ですよ。

あとは話題の「岸角」!生で観られるなんて、ちょっと!やばい!腕~!腕つる~!って観ているほうが苦しくなってしまったんだけれども、岸くんたら逞しいあの片腕で、白くてつやつやで綺麗に整ったあの可愛いお顔と同じ血液が流れているとは到底思えないあの男らしい片腕で、しっかり持ち上げてましたね……、こんにちは、恋。
でもそこで決して軽々と持ち上げるわけではなく、持ち上げる前にひと呼吸置くところも、回しながら歯を食いしばっているところも、ああ、やっぱりこれは生身の岸優太、ここに立っているのは間違いなくいまを生きている岸優太なんだな、と思えてなんともしんどかったです。ごきげんよう、恋。

ふと思ったのは、「岸角」についてもそうだし、ギター、マジックについてもそうなんですけど、基本的に手わざが多いな、というところ。手で習得し、魅せる演出がすごく多い。でも岸くんってふたつを同時にこなすことが苦手な不器用さんだから、すごくすごく練習したんだろうなあって思うのです。そのどの演出も、やっているところの不安要素がまるで見受けられなかった。ギターなんて短時間で練習して弾き語りすごいよ、わたしなんて教えてもらってもドレミファソラシドしか弾けなかったよ(ここで問う、あなたにとってのギターとは)

対してチャンプなんですけど、これはもう、完全にわたしの想像を優に超えてきた。銀河系のはるか遠く何億光年向こうから突然シュッと姿を現したような、そんな小粋さでわたしの想像をいい意味で裏切ってくれた。わたしはまるでいとも簡単に隕石に潰され呼吸困難に陥った、立ち上がることすらままならない。彼の声量、間合い、表情、所作、立ち居振る舞いどれをとっても美しくて素晴らしくて、岸くんよりシーンが少ないにもかかわらずその存在感に圧倒されてしまった、とにかくどのシーンもすべてくっきりと脳裏に焼き付いた。それくらいにすごかった。

正確なセリフは覚えていないんですけど、ユウタと映画の撮影権をかけて再試合を申し受けるシーン。たぶん嶺亜くんとの掛け合いだと思うけど、「わかった、」「チャンプ!」「黙ってろ!」(ここが「待ってろ」だか「うるせえ」だかともかくそういうニュアンスだったんだけど、忘れてしまった)の間合いがすごく上手でね。なんでもないシーンなんだけど、わたし映画観ていてもテンポいい会話の応酬には感嘆してしまうので、ここは心のなかでひたすら拍手喝采でした。

でもそれにしたってチャンプを演じた神宮寺くんのポテンシャルがやっぱりすぎる。手放しで褒める。なんていうか、チャンプの役の入り方すごく難しいと思うんですよ、どうしても観客をユウタに感情移入させなくてはならない、そのぶんチャンプの見せ方はどうしてもユウタより薄くなってしまう。それに、ユウタの脳内シーンでは悪の王みたいになるし、クライマックスでは運命をすべて甘んじて受け入れる清廉潔白な天使にもなる。どれもベースはチャンプなのに三者三様であって、この演じ分けには生みの苦しみがかなりあったのだろうな、と思った。

そんなふたりが最後に歌う「DREAM BOYS」はとにもかくにもしびれました、どのシーンも全力投球ではあるけれど、ここでマックスを持ってきたか、という最高のハーモニーで。聴いていて惚れ惚れして。いつまでも聴いていたくて。
天国の入り口で、死に向かうチャンプに出逢うユウタのシーン。すべてを甘受し達観したチャンプの表情。いろんな感情が複雑に入り混じり、動揺を隠せないユウタの表情。それぞれが相反する表情で歌い始めるのだけど、サビにたどり着くころには、ふたりはお互いの想いを受け止め、運命を受け入れて、熱くこぶしを握りあってたたえ合い、一点の曇りもない表情で歌っている。その表情の変化や魅せ方がとても面白くて、セリフはなくともそこに熱い友情が感じられるシーンだった。

グランドフィナーレは豪華絢爛で夢のようなひとときだった。こんな特別なシャングリアが存在していいのかとさえ思う。美しいし煌びやかだし、もはや荘厳さすら感じさせる天上の世界だった。一生覚めたくなかった。ずっとずっとこのままいつまでも見つめていたかった。
岸くんが、頭を震わせるたびに揺れる髪も、リズムを取って刻む伸びやかな指先も。どんなかすかな部分ですら目にすると愛おしくて仕方なくて、胸がいっぱいになった。「観に来てくれてありがとう」の感謝と、「きょうもやりきった」の自負と、いろんな解放感に包まれていたのであろう晴れやかな彼の表情から、わたしはほんとうにずっとずっと目が離せなかった。目も、耳も、心も脳みそも、わたしのなかのすべてが最高級に幸せを感じられるグランドフィナーレでした。

記念すべき岸くんの初座長。「DREAM BOY」シリーズも、舞台のなかの岸くんも、わたしには初体験。どきどき、わくわく、実際に目にするまでわたしのなかでどんどん膨らんでいったその期待は、破裂寸前の風船みたいにこれ以上ないほど大きくなっていたのに、舞台の上の岸くんや、神宮寺くんや、カンパニーの皆さんが「まだまだいけるよ」とひとまわり、ふたまわり、いやもっと大きく上回るほどの素晴らしさを魅せつけてくれた。とにかく圧巻だった。
心臓を掻き毟りたくなるほどの衝動も、鉛を打ち付けられるような鈍い痛みの絶望も、わたしのなかにちゃんと生まれて、育っていた。もう逃げきれない苦しみに支配されて、目の前の景色が真っ暗になった、でもいつのまにかそれは形を変えていて、なぜかわたしはとても晴れやかな気分でクライマックスを迎えていた。魔法みたいだった。あっという間の三時間のなかで、わたしは上等な喜怒哀楽を経験させてもらったのだな、と実感する。

観た後は放心状態になったし、語彙も失うし、海馬が正常に活動しているのかと不安になるほど記憶があやふやになっている。それくらいわたしのなかでのショックが大きすぎる、いい意味でも、悪い意味でも。でも、何度でも観たくなる、夢に憧れ、弄ばれ、それでもまだ追いかけていく彼らの姿をいつまでも見ていたいと思ってしまう、そんな舞台だった。

これがきちんと咀嚼できているのかどうかはわからない。彼らの一挙手一投足を一瞬たりとも見逃さずみていたいと思っていたけれど、視界から免れた瞬間も、記憶から零れ落ちた瞬間も、おそらくたくさんあったと思う。それでもいまだにわたしのなかに残っているキラキラと眩しい一瞬一瞬はかけがえのないもので、わずかな残像だけでもじゅうぶんわたしは「DREAM BOYS」は素晴らしかった、と胸を張って言える。

夢を見せてくれて、ほんとうにほんとうに、ありがとうございました。まるでまた舞い戻ってきた夏の一片に出逢ったような、炭酸のようにしゅわしゅわと弾けて、陽炎のようにゆらゆらと揺れる、鮮やかで儚い、まるであの三時間は幻だったんじゃないかと夢見心地になるほど不思議な体験ができたような気がします。とりとめのない言葉たちのかき集めですみません、でもいまわたしが紡ぐことができるのはこれが精いっぱい、ありがとう、たくさん、いつまでも。心のなかにちゃんと残しておくよ。ありがとう、恋。そして、さようなら、夏。

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