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12「吊るされた男」✵天と地の狭間で

11「正義」のカードでは、運んできた積み荷を公正な判断のもとに審査されました。
今回のカード、12「吊るされた男」では逆さ吊りにされた男性が描かれています。
逆さ吊りは、中世の刑罰です。
彼は罪を犯したと審判が下されて、罰を受けているのでしょうか?

👬「T、TT、TTTTー!!!」

Pamela Colman Smith, Public domain, via Wikimedia Commons

ウェイト版では、「吊るされた男」はTの形をした木(タウ十字)に縛り付けられています。
「タウ十字」はイエスが磔になった十字架の形である(諸説あり)とも言われており、「死と再生」「復活」のシンボルでもあります。
「タウ十字」だと一目でわかるように、葉を垂れ下げて「T」のシルエットを形作っています。

👬「T、TT、TTTTー!!!」

と強調する感じです。

更に、若々しい葉は形の一環を担うだけでなく生命力も表し、成長中の「生きた」木であることを示唆しています(※実を結ばない木や枯れ木は「罪人」の象徴)。
キリスト教の聖人を描くときの絵画のお決まりである「光輪」も頭にありますね。

つまり、この男性は「罪人」として罰を受けているのではなく、成長や衰退のサイクルの中での「復活」も意味しているのです。


タロットを描き進めるにあたり、ウェイト版に描かれたモチーフのシンボルを紐解く作業をしているのですが、毎回タロットを描いたパメラ・コールマン・スミスのデザインの素晴らしさに毎回感嘆しています。
複雑で果てしない広がりを持つ象徴を、最もシンプルな構図の中に幾層にも重ねている。
既に何回も書いているのてすが(笑) 傑作ですよね。

オリジナルタロットの制作は、ウェイト博士とパメラがカードに潜ませたシンボルを一つずつ分解し、それをまた自分なりに組み立て直していく作業です。
どうしても取りこぼしたパーツも出てくると思っているのですが、カスタマイズされたものに独特の面白さも出てくるのかなとも思ったりも。
完成までどうぞお付き合いくださいませ。

では、オリジナルタロットの解説に進みましょう。

天と地の狭間で

「木は地に根を張り天に枝を伸ばしているので、人間と同じように『2つの世界に属する存在』であり上-下を結び付ける仲介者とされている」

ハンス・ビーダーマン『世界シンボル事典』

生き生きと茂った葉の間からは高い空が垣間見えますが、下の地面の深さは見当がつきません。
明るい空は下に向かうにつれ、現実や物質性に近付くことを物語るような灰色に変わっていきます。

手足を縛られた男性の信号🚥のような色が目に入ります。
赤いタイツに青い服とくっきりした動的な色の組み合わせ。
身動きのとれない静的な状況にあっても、彼は赤が象徴する意欲や情熱、青が表す精神性や内省を失っていません。
また、「青」はユング派の深層心理学では、「心のくつろぎや世事に惑わされない泰然自若とした人生のあり方」とされているとか。

一方で、靴は「黄」色です。
光や太陽、明るさや希望、そして、裏切り者ユダを表す色になります。

ゲーテも黄色について『色彩論』で、「純粋かつ明るい状態においては快適で喜ばしく、また強烈なときは明朗かつ高貴なところを有しているが、これに反してこの色彩がきたなくされたり、ある程度までマイナス側に引き込まれる場合にはきわめて敏感であり、非常に不快な作用を及ぼす。」と述べています。

このように、相反する象徴を持つ黄色により、彼の中に内在する相反する性質-「身を捧げることに迷いがある」「聖人と罪人どちらにもなる」などの可能性も提示しているかもしれません。

そして、まばゆく垂れ下がる頭髪は黄金の翼のようにも見えませんか?
翼をシンボルに持つヘルメスのような知性を働かせて、この縄から抜け出して軽々と飛び立つ方法を探している。
あるいは、今ある苦難の中でもできることを考え出そうとしている、とも考えられます。
どちらにしても、先ほどの「赤」と「青」を身にまとっていることを踏まえると、今置かれた環境の中でも能動的な方向性を見失っていません。

手足を縛られたまま静止している男性は、天と地の上下だけでなく、二本の木によって左右からも挟まれています。
これまで人物を挟む構図の二本の柱(「女教皇」 「法王」 「正義」)は、二元論を象徴していました。
この男性も二つの物事の間で板挟みになるような、またはバランスを取る必要があるのでしょう。

その二本の木と天地に囲まれた「四」方の中心で、男性の脚は「4」の形に組まれています。
「4」は「4」つの交点のある十字と結びつけられる数字です。
彼自身が天と地(神の世界と物質世界)と二本の木(二元論)が出会う「交点」であり、「仲介者」である存在と言えるでしょう。

同じように天(神)と地(人々)の「仲介者」として、父を不死の神とし、母を死すべき人間(マリア)とした神の子イエスが思い浮かびます。
イエスが人類の罪をあがなうため数々の受難にあったように(最後は罪人として処刑)、逆さ吊りで罰を受けているように見える男性にも、困難な試練が与えられているようです。

にも関わらず、「仲介者」である彼の表情には、不思議と苦悶の様子は見られません。
彼は、自分に課せられた役割を理解し受け入れ、イエスのように自ら自我を超越したもののために身を捧げているのです。
頭に聖人のような光輪をいただいているのは、そのためでしょうか。
それとも困難な状況に耐え抜いたからこそ、彼の内なる精神性が光輪となり輝くことになったのでしょうか。

不自由な状態にあっても彼が絶望していないのは、やがては「復活」する時が来ることを知っているから。

成長と衰退のシンボルである木に葉が生い茂っているのも、困難にも負けない彼の強い生命力がロープを介して伝わったからなのかもしれません。
彼には、自分が身を捧げるこの木にはやがて花が咲き、更には大いなる果実が育っていくヴィジョンが見えているのでしょう。

物質的な拘束は、自らの「使命」を理解した人の、崇高で気高い精神の自由までは奪うことはできないのです。

同じような制限や不自由さを私たちの限りある命に重ねてみると、与えられた肉体や時間の中で精一杯できることを考えて実行していくことが、私たちの中にある不死の神性を目覚めさせるのかもしれない、とも考えてしまいます。

逆位置の浮遊感

正位置から上下がひっくり返った逆位置。
この「吊るされた男」では、絵柄から受けるイメージがガラッと変わるように描いてみました。

片足一本で軽々とバランスをとって、高い木の枝の上に立っているように見えます。
重力の理(ことわり)をも超えたような浮遊感と、足を縛る紐がなければどこかに飛んでいきそうな不安定さ。
「縛り」があることで保たれていた緊張感は、あっけなく消えてしまいます。
それと当時に非現実的な異世界を覗いてしまったように、どことなく居心地の悪さも感じてしまうのです。

彼は下界での試練が終わりようやく天へと飛び立てる時が来た聖人なのか、もしくは現実的な下界とは異なるレイヤーや価値観の中で存在している存在なのか。
カードが出た状況によって「うっすらと浮かべた微笑み」から受ける印象も様々に変わり、いろんなイメージが膨らんで面白いと思います。

さてさて、いよいよ次は「死神」の物語に進むことになります。

生を刈り取る死神の鎌
時を刈り取るクロノスの鎌
農耕を司るサトゥルヌスの鎌

この3つの多層的な象徴を上手くまとめた絵にしたいのですが、なかなか制約が大きいですね。
私の中の「吊るされた男」を発動して、何とかよいアイデアを絞り出して生み出していきたいと思います💡

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