AJPCが凋落した10の理由
はじめに
みなさんこんにちは、えりぞうです。
今日は全日本ポーカー選手権のAJPC(ALL JAPAN POKER CHAMPIONSHIP)について触れていこうと思います。
AJPCは、2007年に初のポーカー全国大会として開催し、東京と大阪で予選の後、東京都大田区にあるセガ本社社屋にて決勝を行いました。
当時はまだテキサスホールデムの認知度も低く、東京都内にあるテキサスホールデムのできるアミューズメントカジノ店舗は片手に収まる程度だったと記憶しています。
そして、優勝者はポーカー世界大会であるWSOPのメインイベント($10,000)に出場できる事がポーカーコミュニティを超えて大きな話題となりました。
この頃はまだAJPCの影響力は大きく、2014年ぐらいまではプレイヤーの多くの最終目標がAJPCのメインイベントで優勝する事だったと言っても過言ではありません。
その後、JOPTといったポーカー全国大会の競合イベントが増えたり、海外トーナメントへの意欲が高まった為に、最終目標というよりも数多くある名誉の中の1つとして落ち着きました。
しかしながら、このAJPCブランドの失速はただ単純にプレイヤーニーズが多様化しただけではなく、単純に競合他社に追い抜かれている部分もあると思っています。
では、そのAJPCがなぜ先行者利益を守れず、後発組に遅れを取っていったのかを解説していこうと思います。
尚、この記事はあくまで東京に住んでいる者からの目線になります。大阪からではまた違った風景になると思いますので、もし大阪に住んでいる方で詳しい方はアンサー的な発言をして頂けると地方間における相互補完ができると思います。
1 最近まで運営会社が常設店舗を持っておらず、イベント運営のノウハウが蓄積されなかった
これが最も大きい要素だと思っていて、以下の9つの理由全てに絡んでくるものだと思っています。
常設店舗を持っていないという事は、ちょっと考えるだけで総合ディレクター、トーナメントディレクター、フロア、ディーラー、受付、この辺の役職の一部、もしくは全てを外注に依存する事になり、毎年行われた開催の反省点を翌年に生かされる事が難しくなります。
更に総合ディレクターに関しては、日程、会場、人材手配と配置、賞金総額と配分、トーナメントストラクチャー、参加人数、予選方式、プロモーション、対外交渉等、外注する事も難しく非常にセンシティブな舵取りが要求されるのですが、この経験値が年に1回しか蓄積されず、年4回以上開催しているJOPTに水を空けられてしまった大きな要因であると言えるでしょう。
しかしながら、2018年8月に大阪北新地にIR CAFEがオープンし、ようやく常設店舗を構える事ができました。そしてこちらと併せまして、
AJPC ASIAN CIRCUITと言われる韓国や台湾を中心に開かれる海外イベントも主催している事から、ノウハウの蓄積が高まっていくものと思われます。
常設店舗においては5年くらい前に開業していればもっと違う未来があったと思うのですが、今からでも巻き返しのできる体制は整いつつあると予見します。
2 SNSをうまく使いこなせていない
現在、SNSは既存ユーザーや潜在ユーザーに向けて発信できる最も大きな訴求力の1つで、多くの企業が何かしらの形で関わっている時代です。
SNSの代表的なものは、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムの3つですが、AJPCはこれをうまく活用していない印象を受けます。
ツイッターに関しては、日本最大のアクティブユーザーを誇るSNSとして無視はできない存在なのですが、AJPC2019が終わって1ヶ月以上経った今でも優勝者の表彰さえUPしていない状況です。
一応、フェイスブックには本戦の模様や優勝者の表彰がUPされていますが、写真アルバムが開催年別に分かれておらず、いつの写真なのかを判別する事ができないので、こちらについては不親切であると思っています。
歴代AJPCのメイントーナメントのDAY1は、会場別にせずに同じ会場に全プレイヤーを収容して行うコンセプトになっており、他にはできない大きな仕組みだと思うのですが、その様子がフェイスブックでしか展開されていないのは非常に勿体無い気がします。
2019年は1,000人ものプレイヤーがいる様子をドローンで上空から撮影している動画があり、大会規模感をブランディングするのに適したアイテムがあるにも関わらず、それを知っているユーザーは一部しかいません。
3 毎年開催会場がバラバラ
AJPCは近年まで、
東京/大阪予選→本戦DAY1→本戦DAY2→本戦DAY3
という形式を取ってきましたが、このそれぞれの会場が最大3会場にも及ぶ現象が起きていました。ここに過去5年間の東日本予選及び本戦会場のデータがを記載します。
2015 東日本予選:東京都立産業貿易センター台東館
西日本予選:大阪商業大学
本戦DAY1.2:東京ビッグサイト
本戦DAY3 :幕張メッセ
2016 東日本予選:BIG FUN 平和島
西日本予選:大阪商業大学
本戦DAY1.2:横浜ワールドポーターズ
本戦DAY3 :原宿abemaTV
2017 東日本予選:BIG FUN 平和島
西日本予選:大阪商業大学
本戦DAY1.2:横浜ワールドポーターズ
本戦DAY3 :Leistec studio(新宿)
2018 東日本予選:横浜ワールドポーターズ
西日本予選:大阪商業大学
本戦DAY1.2:大阪商業大学
本戦DAY3 :大阪商業大学
2019 東日本予選:なし
西日本予選:なし
本戦DAY1.2:大阪商業大学
本戦DAY3 :プラスウイン
以上が過去5年の会場データですが、2015年や2016年に関しては、東京に住んでいてもかなり離れた郊外に行く必要があり、しかもそれが3会場にも及ぶという事で、ユーザビリティとはほど遠い開催でした。
しかもDAY2とDAY3の日程が最大1ヶ月強離れたりする年もあったりして、大阪のプレイヤーは複数回来ないといけない為、大変であった事は想像に難しくありません。
勿論こうなったのは、本戦DAY1で予選通過者全員を収容する会場を用意しなければならなかったのと、本戦DAY3は放送環境の整ったコンパクトな会場にする為に、このようなつぎはぎな会場設定になったと思われるのですが、ここまで利便性を犠牲にしてまでそれらを実行する意義があったのかは正直疑問です。
恐らく2018年からは大阪商業大学をメイン会場として据えていく方向性だと思われますので、大阪のプレイヤーはかなり改善されていると思いますが、私は東日本で店舗予選が開催されるようになった手前、本戦DAY1を東京でも開催すべきであると思っています。この件については後述します。
4 放送コンテンツが十分に練られていない
事件は2018年のAJPCメインイベントの放送で起きました。解説者がトーナメントのブレイク中に、オフレコだと思って発してしまったプレイヤーへの悪口とも取れる不適切な発言が、マイクを切っておらずそのまま放送に乗ってしまったという内容です。
通常放送中においてもプレイヤーをリスペクトしない発言が散見された事と併せて、ツイッターでは炎上する騒ぎに発展。AJPC公式はフェイスブック上で正式にこの事を認め、謝罪する形となりました。
この件に関して私個人の意見としては、放送するにあたってどんなコンセプトで実況解説の内容を構成していくのかが定まっていなかったが故に、場末の酒場で行われる井戸端会議と変わらないトークが展開されてしまったんだろうと思っています。
放送コンテンツは実況役と解説役の2人だけの問題ではなく、プロデューサーがどのようなトーク構成に持っていくのかという部分も重要です。
恐らく、AJPCにはこのプロデューサー役がそもそも存在していなかったのではないかと推測しています。
放送機材のセッティングについても、2019年の放送では実況と解説のマイク音量に大きな違いがあり、解説の音声がほとんど聞こえない状況になっていました。
残念ながらここ数年の放送レベルは、視聴者から見て満足できるレベルではなく、未経験者やビギナーが見た時に果たしてポーカーはおもしろいと思ってもらえるかどうかについては疑問が残ります。
言葉を悪くすると、今のクオリティなら放送しない方がましで、そのリソースをSNSのリアルタイム更新に振り分けた方がいいと思います。
その上で放送を続けるのであれば、今一度放送コンテンツにどれだけの予算をかけて人的リソースを投入していくのかを改めて考えるべきでしょう。
5 完全フリーロールから店舗予選方式への転換タイミングが遅かった
AJPCは開催当初、無料で予選に参加でき、本戦で優勝するとWSOPメインシートと名誉を獲得できるというコンセプトで多くの支持を得る事に成功しました。
しかしながらこのビジネスモデルは収益のほとんどをスポンサーからの広告収入に頼る事になり、参加プレイヤーが多くなればなるほど収益が増えるどころか、会場、人、テーブル等のコストが増大してしまう歪な仕組みになっていました。
そして2012年~2013年にかけて、プロポーカープレイヤーの木原さんのWSOP優勝、ひゃっほうさんの2chスレッド『ポーカー世界大会に参加したので写真うpするよ』等の広報活動により、テキサスホールデムは未経験者層に向けて爆発的に普及するきっかけになりました。
その結果、AJPCの予選に参加するプレイヤーも増大し、それまでのスポンサー収入オンリーのビジネスモデルからの転換を余儀なくされていきます。以下にその転換の歴史を記載していきます。
2014年 店舗予選(参加費有料)を開催。
予選通過者は協会推薦枠として本戦出場可能。
2015年 同上
2016年 AJPL発足。国内店舗でSTAGE1(参加費有料)→STAGE2(参加費無料)
を勝ち抜く事でAJPL推薦枠として本戦出場可能。
2017年 AJPL消滅。店舗予選は『地方予選』(参加費無料)という形で開催。
2018年 店舗予選は『エリア予選』(参加費無料)という形で開催。
2019年 無料ライブ予選廃止。一般的な店舗予選(参加費有料)を開催。
こうした紆余曲折があって、2019年からいわゆるJOPTなどで開催しているような店舗予選+オンライン予選に落ち着く形となります。
実は2014~2015年が最も今の形に近く、この形をもっと早く定着化できていればよかったのですが、間にAJPLが入ってしまった事、そしてプライズがWSOPシートから賞金制に移行になった時期があったりと迷走してしまい、結果2019年になるまで一般的な店舗予選を開催するのが遅れてしまいました。
せっかくの先行者利益が、ビジネスモデルの転換が遅れてしまったが為にJOPTを後から追いかける形になってしまい、その優位性が失われるだけではなく、これまで以上にJOPTと比較される事になるのは相当なダメージだと思っています。これからは、無料予選があるから目を瞑っていたという部分が許されなくなり、JOPTと同等のレベルを要求される事になります。
6 本戦の全てを大阪で行っている
繰り返しますがこれはあくまでの東京からの目線になりますので、大阪のプレイヤーは読み飛ばしてください。
2018年より本戦の会場を大阪商業大学に移す事により、東京のプレイヤーからしてみると、利便性が悪化しました。
勿論、これにはAJPCが大阪商業大学を会場として使いやすいという理由があるからなんですが、大阪は東京と比較するとプレイヤーが少ないので、会場理由だけで大阪を優先する事については若干疑問が残ります。
ただ、上記の件は大阪プレイヤーにとっては喜ばしい事ですのであまり大きな問題とは思ってません。
問題なのは、2019年から一般的な店舗予選を開始し、東京地区でもそれが開催されているにも関わらず、本戦DAY1を東京で行っていない事です。
イベント運営側は本戦権利を各店舗に売り切って終わり、ではなくどうやってその予選を行う店舗にプレイヤーが集まるかまでを考えるべきです。
もし予選開催でプレイヤーが集まらなければ、店舗からしてみたら旨みがないので、枠の縮小や予選開催の撤退を検討するでしょう。
そういった上で、東京の店舗予選を通過して本戦がいきなり大阪という仕組みだと、東京プレイヤーは予選通過しても、大阪へ行くのに時間やら交通費やらで大きな負担を強いる事になり嫌気をさしてしまうので、結果的に東京でのAJPC店舗予選にプレイヤーは集まらなくなります。
これが続いていくと、東京店舗で本戦権利を買ってくれる所がなくなっていき、結局はこのビジネスモデルさえ方向転換を強いられる事になります。
7 途中でWSOPシートではなく賞金制になった事
2016年、AJPCはそれまでずっと守り続けていた伝統を自ら崩す事になります。それは、メインイベント優勝者へのプライズを、WSOPメインイベントシート($10,000)+α から、優勝賞金100万円に変更した事です。
なぜいきなりこのような変更にしたかはわかりません。もしかしたら、AJPC発足以降のAJPCメイン優勝者の中で、WSOPメインの入賞者が一切出ておらず(もし間違いならご指摘ください)、アフターストーリーとして印象の薄い結末だった為に、それならもう賞金の方がプレイヤーとしても嬉しいんじゃないかと思って変更した可能性もあるのではと邪推しています。
こうして賞金制に移行した訳ですが、同時にAJPLが発足し、店舗予選に有料(STAGE1)を支払って参加し、その後最終的には賞金を受け取る事ができるという仕組みは、賭博に関わるのではないかと言う事で、ツイッター上で炎上を起こす騒ぎとなってしまいます。
上記のケースが賭博罪や賭博場開張図利罪に抵触する可能性については、法の素人の私が判断すべき問題ではありませんのでここでの言及は避けておこうと思います。この記事を見た弁護士の方が見解をお寄せ頂けると幸いです。
結果、AJPCは賞金制を継続するものの、AJPLを廃止して店舗予選を地方予選、エリア予選と名称を変えて無料で参加できるように変更して、コンプライアンス上においては事なきを得ます。
しかしながら、その方式だと収益性が悪い為、結局は2019年に賞金制をWSOPシートに戻して有料による店舗予選を再開しています。
これを見ると、この2016年から2018年にかけての3年間、賞金制にした事は失敗であったとAJPCは判断したんではないかと思います。
こうしたイベント方向性の回り道については、当時のプレイヤー達の間である程度の混乱があった事は事実です。
8 店舗予選の重複権利獲得のメリットを打ち出さなかった
この項については、AJPC側及び予選店舗側の興行側目線です。プレイヤー目線だとほとんどの方が反対するであろう意見である事を承知で書きます。
今現在、JOPTを始めとして多くの広域ポーカーイベントが開催されていますが、その多くが重複権利における初期スタックアドオン制度が採用されています。
これはなぜ導入されているかと言うと、権利を獲得したプレイヤーが再度その予選に参加しても意味があるように作られています。逆に言えばこの制度がないと、一度権利を獲得してしまうともうその予選に参加する意味がないので、当たり前ですが予選に参加はしないでしょう。
そうなると、予選期間の終盤は本戦権利獲得者数が増える為に必然的に参加者が減ります。予選参加者が減ると、店舗収益は落ちます。すると、店舗から見て本戦権利の価値は時間と共に減少していくので、多くの権利を購入するリスクを怖がってしまい店舗の権利購買意欲に繋がらないという構図です。
この重複権利の初期スタックアドオン制においては昔から、プレイヤー間で競技の公平性に欠けるのではないかという事でしばしば批判の対象になっていました。
それはまさにその通りで、これはその公平性を犠牲にして興行性を優先しているという事です。元々運営側にいた身としては、この事を正当化しようと思っていません。
そして、新たにもう1つ問題があります。
先述の通り、予選期間の終盤は参加者が減ると申しましたが、そうなると店舗側はどういった対応をするでしょうか。
答えは、その予選をマルチサテライト化して、上位者はAJPCだけではなく違う広域イベントのチケットも選択できるという形にします。
こうする事によって、既にAJPCの権利を獲得しているプレイヤーでもそのトーナメントに参加する意味が生まれるので、参加者の減少を防ぐ事ができます。
しかしそうなると、今度はせっかく年に1回しか開催されない特別なイベントであるAJPCが、その他の広域イベントと同様に雑多な形で取り扱われる事になり、AJPCの特別感、プレミア感が埋没してしまいます。
これではAJPCはブランディング戦略で失敗しているという事になります。
この問題については、何が正解なのかというのは非常に難しい問題で、公平性、興行性、ブランディング、店舗との関係構築などがトレードオフになるので何を優先すべきかで答えは変わってきます。
しかしながら私個人としては、この方向性について熟考に熟考を重ねた結果そうしたのではなく、今までの流れから最も影響のない方向として無難にこの方法を選んだんだろうなと思ってしまいます。
私は、2019年の仕組みのまま2020年を開催すると、よりブランディングの面で苦戦を強いられる形になると思います。
9 店舗予選通過者が公開されていない
これについては、SNSの部分にもかかってくるのですが、2019年に一般的な店舗予選が再開されたのですが、この店舗予選の予選通過者をツイッター、フェイスブック、HP等で一般的に公表しませんでした。この件については問題があります。
それは公平性です。
この通過者を公表する事によって、きちんと予選を行っているんだという事を対外的にアピールできます。
裏を返すと、通過者を公表しないと本当に予選が行われているのかという嫌疑をかけられる可能性が出てきます。
実名は避けますが、とある広域イベントで店舗予選を開催したふりをしていて、実際は店舗を経由してプレイヤーにそのまま本戦権利を譲渡しているケースもありました。
勿論これはAJPCの事ではありませんが、そういう事例もあったと言うことです。
10 なんか毎年場所は変わるわ予選方式は変わるわアプリがどうとかよくわかんねえよ!
プレイヤーは毎年AJPCの開催概要が発表される度に、それまでの知識を一旦ゼロベースに戻してから新たに内容を理解していく必要があり、かなりのストレスになります。
1年に1回の開催という事なので、時代の流れもあるのである程度の変化は仕方がないと思いますが、方向性があっちいったりこっちいったりで定まらないので毎年色々な変更があるんですよね。
毎年安定した変わらぬ運営というのも必要で、それはプレイヤーの安心に繋がるものです。
さいごに
今回は色々と都合がありまして、問題提起はしましたが改善案の提案はしませんでした。
もし、運営側の方がこの記事を見たら「なんか知らねえ奴がごちゃごちゃ言ってるんなあ」みたいに思われるかもしれませんが、ここに記載されてある内容を改善するだけで見違える程いいイベントになると思います。
私個人としても2014年にAJPC公式放送の司会をやらせて頂いた手前、思い入れがありますので、是非これからもプレイヤー達の目指す全国大会となるべく、益々のご発展をお祈り申し上げます。
また、遅ればせながら2019年AJPCの各部門で優勝された田中さん、蓬田 さん、坂下さん、松村さん、おめでとうございます。
WSOPやAJPC ASIAN CIRCUITでのご活躍をお祈り申し上げます。
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