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暗闇でフレンチを食べたら、食い改めたくなりました

暗闇ごはん。
それは、何も見えない状態で、想像力を目一杯働かせて食べるごはん。

1年くらい前、浅草にある緑泉寺で、料理僧として有名な青江覚峰住職が主催する「暗闇ごはん」を体験しました。一口一口を丁寧に食べるからか、食事がいつも以上に美味しく感じて。お酒がなくてもこんなに食事を楽しめてしまう私は、久しぶりでした。

いつかまた参加してみたいと思っていたら、Facebookでフレンチの名店「KEISUKE MATSUSHIMA」でのコラボレーションイベントを見つけ、ちょっと贅沢だけど、娘と2人でフレンチ版暗闇ごはんを体験してきました。

ワインとのペアリングが楽しいフレンチを、ワインなしで楽しめるのでしょうか? 記憶を辿ると、フレンチをワインを飲まずに食べるのは初めてかもしれません。

フレンチ版暗闇ごはん、スタート!
今回は限定16人の企画。最後の晩餐の絵が飾られたこじんまりした個室部屋に入ると、テーブルにはお箸とスプーンとアイマスクがセットされています。それを見て、「何も見えないのに、お箸を使って食べられるのかな。こぼしたらどうしよう……」と不安げな娘。でもその後、青江さんがそんな不安な気持ちがなくなるくらい、分かりやすく説明してくれて、暗闇フレンチがスタート。

ここで食レポをしたいところですが、また同じ企画があるかもしれないですし、お寺の暗闇ごはんでも同じ食材が使われていたので、何が出たかはお伝えするのをやめておきます。そのくらい、「これはなんだろう?」と食べる体験は想像以上に面白く、答えを知っているのと知っていないとではこんなに違うのかと思えるくらい感動が増すからです。

お寺で食べた時もそうでしたが、お皿が進む毎に、自分が何を食べているのか考えるのが楽しくなってくるのです。自分が思った食材名をを大きな声でつぶやいていいのですが、これがまた楽しいんです。皆それぞれ違うことを言うので(笑)。そのくらい、人によって感じ方が違って面白いものです。

目隠しをしているほうが、素材がわかるという不思議
全8品中、最初の5品を目隠しで食べたところで、「ここでアイマスクを外してください」と声がかかりました。目を開けると部屋は明るくなっています。6品目に出てきたのは、松嶋シェフ特製の薬膳カレー。エスニックと和が融合したようなスパイシーでありながらやさしい味わいを楽しみながら、青江住職のタネ明かしが始まります。
 「最初に飲んだスープの素材は何かわかりました?」との質問に、全員が同じ食材を答えました。すると青江住職が「皆さんが飲んだのは、こちらなんです」と小さなグラスを見せてくれました。それは、全員が答えた食材の色とは違う色だったので、全員が「あ、間違えたかも」とばつの悪い表情になったところで、青江住職はにっこり。「みなさん当たりですよ、大丈夫」

 「目隠しをして飲むと、ほとんどの方が当たるんです。確率的には98%。でも、目隠しをせずに飲むと、正答率は66%になります。私たちは『この食材ならこの色、この形』という先入観があるので、違う色だと違うものだと思ってしまうのです。私がお伝えしたいのは、先入観にとらわれると、ものの本質が見えなくなることがある、ということなのです」

 こうやって次から次へと種明かしがされます。ほとんどの人が初対面だったのに、同じ体験を共有したからか、和気あいあいな雰囲気に。ちなみに、青江住職は米国留学されていたので英語がご堪能。私が前回お寺で体験した時は、無謀にも英語バージョンに参加したので外国人比率が高く、皆が大声で食材を当てっこしていて、それはそれは大盛り上がりでした。

人を良くする、と書いて「食」
青江さんは、参加者にこんな話をしてくださいました。

「みなさん、日々お忙しいので、食事しながら他のことを考えてしまいますよね。でも、暗闇だと目の前の食事に集中できます。こんなに一生懸命食事をすることはなかなかないですよね。でも、いろいろと発見があるでしょう? そして、知らない仲間でもこんなに楽しく食事ができるでしょう? 食という字は、人を良くする、と書きます。食事と向き合うことを通じて、人と向き合って、お互いをよくしていく、今日がそんなきっかけになればうれしいです」

味覚を鍛えると、他の感覚も磨かれる
その後、松嶋シェフも特製カレーの紹介から続いて味覚の話をしてくださり、たくさんの気付きをもらいました。

「実はこのカレー、塩分を使っていないんです。でも、十分美味しいでしょう? 素材の味だけでこんなに味わいを出せるんです。塩分と糖分を取りすぎると、味覚が衰えていってしまいます。その衰えは、他の感覚・器官にも影響を与えかねない。だから、1日1食だけでもいいから、感覚を研ぎ澄ませて食事をすること、できるだけ素材の味だけで食べるようにすることをおすすめしたいです」

そして今回、青江住職と組んだ理由も教えてくれました。

「日本の精進料理は、世界で唯一、どんな宗教でもどんな民族でも食べられる。グローバルな料理になり得ると思います。それがまず一つ。そしてもう一つは、会社や組織と同様、前例踏襲で済まされることが多いであろうお坊さんの世界の中で、青江さんは稀な存在。暗闇ご飯の試みもそうだと思います。これまでやってきたことをいい意味で疑ってみることができる人です。そうすることで、新たな発見ができることもあるはず。私も一緒に新たな発見をしていきたいと思うのです」

食事のことだけではなく、仕事や毎日の生活で大事なことまで教えてもらってかなり得した気分に。でも、一番印象に残ったのは、最後にお二人が伝えたかった言葉。それは、

悔い改めよ、ではなく「食い改めよ」

よく噛むことを心がけること。そうすると、感覚が研ぎ澄まされ、味がどんどん分かるようになってくるはず。人の話も同じです。片手間に聞き流してしまうと、本来なら違うと思えることを鵜呑みにしたり、逆に聞き逃しちゃいけないことをスルーしたりしてしまいがち。
そう。食事も会話も、ちゃんと咀嚼すること、食材や話す相手と真剣に向き合うことが大事なのですよね。

フレンチで暗闇ごはんだなんて、未成年には不相応かもと思いましたが、私はもちろん娘にとっても、これからの人生の財産、忘れられない貴重な食育の機会になりました。青江住職、松嶋シェフ、ありがとうございました。

参考HP
緑泉寺  暗闇ご飯 http://www.ryokusenji.net/kaku/
ケイスケ マツシマ http://keisukematsushima.tokyo/


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