勘違い
「何から話せば良いのかな」。
悲しいことが多すぎる日常に何を添えれば、あなたに触ることができるのだろうか。
このまん丸の地獄は、いまに始まったことで無いと心のどこかではちゃんとに分かっていて、それでも私は。
考えて考えて心を尽くし、考えて考えて言葉を尽くし、それであなたにおずおずと差し出せば、きっと届くなんて、まだそんな夢みたいなことを思っている。
愛し合うことと、分かり合うこととは別物で。
愛すことと、愛されることは最も遠い場所にいる時があって。
2人が1人になることは永遠にない。
どんなに似ているあなたとも、この世界に偶然生まれた似たもの同士以上にはなれず、大事な核みたいなものはずっとずっとバラバラだ。
つまり私たちは、ずっと、ちゃんと、別物。
それら全部ちゃんとに分かっていて、それでも私やあなたは、美味しいアイスクリームをひと口差し出すように、私の悲しみを小さなスプーンに少しだけ乗せて差し出してしまう。
私が美味しいと笑えばあなたも美味しいと笑ってくれるように、私が悲しいと俯けばあなたもそんな風にしてくれると、何度も何度だって勘違いをしてしまう。
何度差し出したスプーンの上のアイスクリームが忘れられ、溶けて床に垂れたとて。
そのアイスクリームが水たまりみたいにどんどん大きくなったとて、飽きもせず差し出す。
私はゾンビみたいな愛を、溶けたって甘ったるい愛を、愛という盛大な勘違いを、今日も差し出してしまう。