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彼について知っている二、三の事柄


私は、フォトグラファー岡田貴之さんの撮影する写真が、とても好きだ。

岡田さんは、私が大好きなエレファントカシマシの写真を撮り続けている。
エレカシといえば岡田さんが撮影した写真がすぐに浮かんでくるほどだが、エレカシの他にも多くのミュージシャンを撮り続け、CDのジャケット写真はゆうに500枚を超えると言う。
そんな繋がりが深いエレファントカシマシだが、FCで写真についてはキャプションで当時の様子が述べられているが、岡田さんご自身についてはあまり触れられていない(所有していないFC誌に、もしかしたらあるのかもしれないが)。
そのため、各所にあるインタビューや対談から、岡田さんについて私が知り得たことをまとめてみたいと思った。


ご本人が思っているイメージに近づきたい

“撮られた本人が「これはいやだな」と思うようなものは写したくないんですよね。だからドキュメントのように撮ってはいるんですが、僕が見ている本人よりも以下に写ってしまうものは絶対ダメで。
人に対して発信している人は、撮られている時もご本人が「こういう風に撮られる撮られるといいな」と思っているイメージがあると思うので、そのイメージに近づきたいと思っています。”
(大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊行)

こう言う被写体への思いの上に、私を始め多くの人が、これぞこの人の本質だ!といわれる写真が撮影されるのだろう。

では、被写体から見て岡田さんはどう映っているのか?
長く撮影を手掛けられている俳優の大沢たかおさんの言葉を、引用させて頂く。


“岡田さんはそういう苦悩を見せない。話さないし。”
“岡田さんはね、頼りになっちゃう人なんです。器が大きいから、相談したくなる。もちろん僕の仕事とは違う仕事ですけど、全然相談できる。”
(大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊)


岡田さんが被写体である人間に寄り添うと同時に、撮られる側は、皆、彼にこんな信頼の気持ちを寄せているのだろうと思った。

いくら撮っても飽きることはない

“広告とか、あるいはグラビアの人を「それっぽくなく撮って欲しい」みたいなオーダーが結構来るようになって、その時写真というものにすごく勢いがあったんです。
広告も保守的じゃなかったから面白かったし。
ただ、あまりに仕事が広がりすぎてしまって、それで30代後半くらいの時に一度休んだんですよね。じっくりやれなくなってきて。
もちろんもともと職業カメラマン意識しているので、何が来てもやれると思っていたんですけど。次から次へときて、疲れてしまって。
でも、休んでよかったのが、その一年の間にすごく人間関係がシンプルに整理されて。”
(大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊行)


「忌野地図」が刊行された2008年春は休業中だったという。
2007年あたりは、1年休業されていたのか…?
職業カメラマンとして稼げて、仕事も舞い込むようなっていたこの時に、1年もの休業は余程の思いがあったのだったのだろうと思わざるを得ない。

この話を聞いて、ふと私は自分の経験をおもいだした。
私の思いなどとは次元が違うと思うが、綴っておこうと思う。

私も幾度か仕事を辞めようと思った事がある。
関わる人が多い、大きなプロジェクトに取り組んだ後には必ずと言っていいほど、その人間関係や繋がりが、意志に反して迫って来て、面倒で嫌気がさした。いや、その人間関係がと言うよりも、関係を繋げる為に心にもない言葉を口にして取り繕う自分に嫌気が差し、孤独になりたかった。
だが、私の作りたいものは、一人で生み出せるものではないのだ。
人と人が繋がってこそ生まれてくるものがあり、それが束となって人々に伝わり、喜んだり悲しんだり、時には感動したと、いつまでも心に残っていると、言ってもらえる。
人との繋がりによって失うものよりも、生み出されるものの方が、とても大きく、多かった。
そう思った時、私はもう一度、人の輪の中に戻っていったものだ。


“休んでいる一年。あまりなにもしていないですね。ラーメン屋とか写真とじゃない仕事のことも考えたりしましたけど、でも写真に戻ってきたというか。それしかずっとやってなかったんで。ほかの道もあるかなと思ったんですけどね。”
(大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊行)


戻って来てくれて、今もエレカシを撮り続けてくれている。
ーーーいくら撮っても飽きることはない。ーーー
そう、力強い言葉をエレファントカシマシのFC誌PAOで目にした時は、とても感慨深い気持ちになった。

僕が1番好きな瞬間の写真は撮れない

“曲を歌い終わった後の、余韻を感じるASKAさんが好きです。その時は場内がシーンとしているのでシャッターが押せないのです。シャッター音が響いて、ASKAさんとお客さんの世界観を邪魔してしまいますから。だから僕が1番好きな瞬間の写真はとれないんです。”
(TUG OF C&A 2013年3月 ツアーパンフレット 撮影密着記)

“ASKAさんの呼吸、リズムに自分をシンクロさせることです。いつも、ASKAさんを感じながら、シャッターを押しています。”
(TUG OF C&A 2013年3月 ツアーパンフレット 撮影密着記)

撮影の時の意識は、被写体だけに巡らせているわけでない。客の世界感への配慮をも忘れないのだ。
きっと、ほんの数メートル内しか聞こえないであろうシャッター音でさえ気にしてくれているのだ。

アーティストの作る、世界を何より大事にする。
その思いに、ただただ感服する。

いい作品を生み出す為には

“みなさん僕から見たら成功者ですが、親しく付き合っている人たちはみんな地味ですね。パーティもしない、フェスに出てもすぐに帰っちゃうような感じで、世俗的な意味で幸せそうな人はひとりもいないんじゃないかと感じさせるところがあります。”

“ミュージシャンの友人とお酒を飲みにいくと、いつも他のお客さんを見て「楽しそうだね」とからうらやましそうにしています。いい作品を生み出すために他のすべてを犠牲にしているというか。端から見れば彼らの人生の方が羨ましいし、幸せに見えるけれど、本人たちにとっては決してそうじゃないんですよね。”
(「Birdland」パルコプロデュース2021  株式会社パルコエンタテインメント事業部)


気持ちを寄せて、被写体のリズムにシンクロして撮影していくミュージシャンを、彼はこんな風にファインダー越しに見てるのか。
だから、その写真はミュージシャンの持つ熱量、気迫、ともすれば儚さ、危うさ、孤独さえも、写し撮っていると私は感じる。
エレカシの写真はもちろん、国内海外のアーティストを撮影された写真のどれもみな。

旅に憧れる

“これはこの世代だからなのかわかりませんが、美学というか「ここにとどまっちゃういけない」っていう意識があるんですよね。
旅に憧れるというか。そこに、自分が行かないといけない。でも北極とか、すごい景色を前にしても、そこに写る人がいないとダメなんです。写欲がわかない。”
(大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊行)


旅、と聞くと、エレカシファンは、ファンなら誰もがエレカシの楽曲に旅を歌う曲が多いことに思い至る。
岡田さんの作品に対する美学は、エレカシの楽曲の美学と同じベクトルにあるのか?と思う。それは、よく港に喩えられる女には理解しがたい、大海を草原を流離う男の一箇所には留まることのできない姿なのかもしれない。


エレファントカシマシ宮本浩次さんは、岡田さんのことをかつてこう語った。
最初から繋がっていて、同じ旅路を歩んできたお二人にもそんなことがあったのか?と思った。いつか、その紆余曲折を聞かせて頂ける日が来ると嬉しいと思っているが。


“岡田さんものすごく活躍しているんですよ。でも、巨匠の何々さんに撮ってもらおうという事じゃないっていう。1番わかってる奴に撮ってもらおうというのは、結果的に1番良かったりしてきたの。紆余曲折してこうなったんだけどね。”
(GOOD ROCKS! Vol.29  2019年7月19日刊行 エレファントカシマシインタビュー)


いや、それは浅はかなファン心理に過ぎない。
お二人だけが、わかっていれば良いことに違いないのだ。

これからも、素晴らしい作品を生み出して頂ければ。
それが、唯一の望みだ。


注意:非常に引用部分が多い為、問題ございましたらご一報をお願いいたします。

出典 引用 
大沢たかおFC PRIVATE SEAT86&87 2014年刊行 “岡田貴之✖️大沢たかお対談”より
GOOD ROCKS! Vol.29  2019年7月19日刊行 エレファントカシマシインタビュー
エレファントカシマシ FC誌PAO
TUG OF C&A 2013年3月 “ツアーパンフレット撮影密着記”より
「Birdland」パンフレット パルコプロデュース2021  株式会社パルコエンタテインメント事業部 “岡田貴之インタビュー”より

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