ヨーグルトの思い出

ヨーグルト、と言われると決まって思い出してしまうのは
子どもの頃(幼稚園くらいだろうか)に
熱を出して寝込んでいるときの記憶だ。

「何か食べたいものはない?お母さんが買ってくるよ」
熱に浮かされ、朦朧としながら布団に埋もれているわたしの
熱いおでこにひんやりとした手をのせ、
心配そうというよりは痛ましそうな表情を浮かべて
わたしの顔を覗き込みながら母が尋ねる。

顔をたぶん熱で真っ赤にしながら、
かすかすの声でよわよわしくわたしが所望するのは
いつもヨーグルトだった。

もちろん言わずもがな銘柄も決まっていて、
わたしが所望するヨーグルトというのは
普段からおやつで買ってもらっていた3個パックの加糖タイプのものだ。
(今では甘すぎて絶対食べない。)
パッケージには外国の女の子の絵が載っていたように思う。
わたしはそれを当時よく観ていたアニメのハイジみたいだと
思っていて、勝手に近しいもののように感じていた。

どこの家でもそうだと思うが、わたしの家では風邪を引いて寝込むと
食事はお粥か温かいうどんの2択しかなく、
小さい頃のわたしにはそれがひどく酷だった。

ただでさえ身体が熱くて苦しいのに
「汗をかかないと体温が下がらないから」という理由で
厚着をさせられ、更に毛布と掛布団をきっちり首元まで掛けられる。
熱くて布団を蹴飛ばして足を出したり、布団から腕を出したりしていると
「それじゃあ良くならないよ」って布団を直され、
それはもう我慢大会だった。

やっと食事のためにふらつきながら布団を出ることを許可されても
熱いストーブの前に座らされ、
運ばれてくるのはあつあつのお粥やうどん。
ただでさえ食欲がないのに箸は全く進まなかった。

それに引き換えヨーグルトときたら!
ひんやりつめたく、水分もあって、
ほんのり甘いけれど酸味もあるヨーグルトは
つるんとわたしの喉を通り、熱い身体にしゅっとしみ込んでは
すみずみまで行き渡って体温を下げてくれるような気がした。
風邪というからからの砂漠をさまようわたしにとって、
ヨーグルトはいつもオアシスだった。
いつもお粥やうどんはちょっと口をつけただけで残し、
ヨーグルトばかり食べて薬を飲んでいた気がする。
いつもは厳しい母もこの時ばかりは
「食べられるものなら何でもいいから」とやさしかった。

あれから二十数年、今ではわたしは独り暮らしをしているけれど
風邪を引いていようがいまいが、冷蔵庫にはヨーグルトは欠かさない。
あの頃と違って、今は無糖タイプの400gの大きなものだけれど、
スプーンですくって口へ運ぶときにふと今でも
風邪で寝込んで看病されていた景色を思い出して
甘やかな気もちになったりする。
これはきっとわたしがおばあちゃんになっても忘れないと思う。

#ヨーグルトのある食卓

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