『コーヒートーク』感想

良い評判が耳に入るので気になっていた『コーヒートーク』がクリアできたので、感想。

※自分の整理の為に書いた文章につき、超長文。
※ネタバレあり。もし未プレイの方は是非遊んでみてね。(回し者ではありません)

ゆったりとした音楽が流れ、雰囲気あるカフェのバリスタとしてカウンターに立つところからゲームがスタートする。
お店にやってくるお客様の注文を聞き、バリスタとして飲み物を作って提供し、のんびりとお客様のおしゃべりに耳を傾ける。

バリスタは淡々と注文をとり、お客様に合わせて飲み物を作る。
お客様の様子を見て、話しかけて欲しそうか、ゆっくり一人の時間を過ごしたいのか、見極めながら声を掛けていく。
自分について詮索された時は、ジョークを交えて受け流す。

多くは語らない、少し大人な雰囲気作りがとても上手い。

音楽も、心地よいカフェの雰囲気がよく出ていていい。
いちばんのお気に入りは『Come Closer』かな。
そして今、ゲーム内のスマホから曲を選ぼうとしてようやく気づいた。ニールとフレイヤの邂逅時、ニールの服装についての話で出てきたCDのジャケットは、このアルバムの事だったのか。

これを聴きながら本でも読みつつコーヒーを味わえたら、確かにいいお店だろうな、と思う。
だが、このカフェにはほとんどの日に、緑髪の賑やかな妖精が着席しているのだった。

私がカフェの飲み物にかなり疎い方だ、というのはもちろん多分にあるけれど、このゲームに出てくる飲み物たちのほとんどが見たことのない組み合わせだった。
コーヒーに生姜やシナモンを加えて飲む経験はしたことがない。
聞いたことのない飲み物の名前を言われた時、あえてゲームの攻略方法ではなく飲み物の名前で検索をして、本物のレシピを見ながら素材を選んで試してみるのが楽しかった。

これもまた、このカフェに行って彼の作った飲み物を味わってみたいと思わせてくれた。

お客様の会話の中で、いちばん印象的だったのは、やはりベイリースとルアのカップルの話。
いろいろな人がばらばらと訪れるこのゲームの形式をうまく使った構成で、舌を巻いてしまった。

このゲームは、結構わかりやすく、人種差別や文化の違いなんかを「種族の違い」に置き換えて表現している。
このふたりは、互いに家族に対する考え方に違いがあって、少しの間疎遠になってしまう。

こういう揉め事が起こると、「どっちが悪い」と結論を出したがるのが人間の性なんじゃないかな、と思う。
自分の考え方に近い側に肩入れして、反対側を説得してやりたいという、傲慢な気持ちが芽生えてしまいがち。
私の場合はベイリースの考え方に近かった。
そして、一応ははっきりと「こうしよう」という考えを伝えているベイリースに対し、具体的な案を出せない一方で「それはよくない」と言うルアに、少し苛立ってしまったのが事実。

数日後、ルアに対して、歯に衣を着せないタイプであるハイドの口から、現実的な考え方というものが率直にズバズバと浴びせられる。
それは私が感じたもやもやとした気持ちを代弁しているかのようで、「はっきり伝えてくれてよかった」と思ってしまった。

が、それだけで終わらないのがこのお話の良さだった。
その数日後に、今度はベイリースとガラがこの件についての話をする。
そして今度は、ルア側の難しい立場について、ガラが優しく気づかせてくれる。
それはベイリースに語りかけているだけでなく、同時に私にも伝わってきていた。
そしてふたりはお互いの考え方についてきちんと理解し、未来へと一歩を踏み出す。

おそらく、私が最初ベイリース側に肩入れしたくなったのと同じように、最初にルア側の考えに近いと思った人も大勢いるのだろう。
「相互理解には歩み寄りが必要」なんて、飽きるほどよく聞いている言葉だけど、最初に自分が「正しい」と感じたことを変えるのは、なかなか難しい。ともすれば、他の人にも自分の「正しい」考え方を知ってもらおうと、油断すれば押し付けてしまいがちだ。
そんな愚かな傾向がちゃんと自分にも備わっているということを、このゲームに突きつけられてしまった。恥ずかしいけど、これを機に襟を正そうと思う。

2周目をプレイすると、やはり1周目での見落としに気が付いて楽しい。
『長い週末休み』のくだりで、ルアのルームメイトがおそらくマートルだということに思い至ってニヤけてしまった。
なるほど、カレンダーを確認すると、ルアとマートルがカフェで鉢合わせる日は一度もない。
お客様たちは大体お互いに顔を合わせているものだと思い込んでいて、これは盲点だった。
(ただ、2週間後のシーンで、ルアの前でマートルの話をしても無反応なので、確実に言い切ることはできない)

2周目までクリアすると、バリスタの正体がほんのり仄めかされる。
最後に出てくる人物は、ガラとハイドを足して2で割ったイメージだろうか?
仄めかされる正体はノベルゲームのメタが含まれていて、大人らしい会話が続くこのゲームらしい、余韻の残る柔らかい終わり方でとてもよかった。

私はこのゲームを夜眠る前に少しずつ進め、じっくりと個性的なお客様たちの会話を味わった。
時節柄、気軽に友人と酒を飲みに行くなど出来ない中でこのゲームに出会うことができたのも、なんだか巡り合わせが良かった気がする。
ゆったりとした他人との会話に飢えている中、人と人が緩やかに交わるこのカフェのカウンター席を特等席で眺められて、良かったと思う。

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