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ていの創作小説

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自分の創作小説をまとめています。
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2021年1月の記事一覧

オジギソウ(誕生花ss)

 子どもの頃から泣き虫だったぼくをいつでも庇ってくれたのは、近所に住むお兄ちゃんだった。…

てい
3年前
3

ムスカリ(誕生花ss)

 彼女は、僕の家の人間とともに埋葬されるために生きている。そういう役なのだ。例えば僕の父…

てい
3年前
2

キンカン(誕生花ss)

 冬は、乾燥しているから苦手だ。喉に良くない。  2月に行われる大会と3月の卒業式での披露…

てい
3年前
1

ビオラ(誕生花ss)

 その日は懇意にしている書店の主人とつい話し込んでしまい、帰路に着いた時には夕方になって…

てい
3年前
1

シロタエギク(誕生花ss)

「人間の愛は……」  店員が運んできたカップを見もせずに直接受け取って、黒髪の男は話し出…

てい
3年前
4

アマリリス(誕生花ss)

 白く美しい細腕に剃刀の一閃、さっと赤い線が一筋、浮かび上がる。赤はみるみるうちに盛り上…

てい
3年前
1

チューリップアンジェリケ(誕生花ss)

 大きな、薄皮の重なりが、滴の形に膨らんで、私の頭上より少し上の方で弓なりに反り、空の藍色を透かしている。遥か遠くに一番星が輝き、私は時間を忘れていく。  透明な、花びらの形をしたそれに手を掛ける。あっけなく、薄い薄いその皮が剥がれた。風より軽いそれは、微かに弾力があり、齧るとほのかに甘かった。薄氷のような、氷砂糖のような冷感が、掌に心地良い。剥がれた皮の下には、また皮がある。透明な皮が透明な皮に無限に重なり、大きな花の内部には何があるのか知れない。私は次の皮に手を掛ける。

オモト(誕生花ss)

 レイロは我が家の使用人で、ぼくが幼いときからずっと、身の回りの世話と家庭教師とを兼任し…

てい
3年前
1

マンリョウ(誕生花ss)

 まだ人とそれ以外との境界が曖昧だった、昔のこと。  思いがけず、福の神の仲間であるセン…

てい
3年前
1

アネモネ

 あなたは風に乗って来る。  あちこちカスタマイズされたウィンドフローターに乗って風魚を…

てい
3年前
1

ピンクッション(誕生花ss)

 もうずっと、針を飲み続けている。  嘘ついたら針千本飲ます、という童歌にもある通り、死…

てい
3年前
1

ラナンキュラス(誕生花ss)

 人に話したいことがない。  本を読んだりテレビを見たり、ネットの海を漂ったり、音楽を聴…

てい
3年前
1

ワックスフラワー(誕生花ss)

 その生物には何の取り柄もなかった。  鳥のように羽ばたいて空を飛ぶこともできない。魚の…

てい
3年前
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レンギョウ(誕生花ss)

 敷かれたレールの上を走ってきた。  胎教から始まり、英才教育に熱心な幼稚園、有名大学の附属校、塾に家庭教師にと、与えられるものは素直に受け取って努力した。私が努力すればするほど、親は喜ぶ。 「貴女が私たちの希望よ。頑張って良い大学に入って良い職に就いて、幸せになって欲しいの」  母はよく、そんなことを言った。 「あんた、そんなに親の言いなりになって楽しいわけ?」  そんなことを言う友人も、中にはいた。私の通う学校では本当に珍しいタイプの子で、他校の生徒と深夜までドライブした